部屋で書物の整理をしていた時のこと。
見慣れない書物があったので、それを開いてみるがやはり初めて見る書物だった。
興味本位で、頁をめくり読み進めていく。
地域の風習や歴史について、記載されていた。
私の世界は酷く狭い。
以前、旅はした事があるがそれでも生活圏はこの季封村だ。
「どうかしたのか?詞紀」
襖が開き、幻灯火様が部屋へ入ってきた。
「っ!幻灯火様!」
「ああ、すまない。何度か声をかけたのだが、返事がなかったので」
「いいえ、すいません。気付かずに」
「何をしていたんだ?」
「書物の整理をしていたら、私のものではない書物があったのでついつい夢中になってしまいました」
「どれ?」
私の隣に座り、そのまま手元にある書物を覗き込む。
いくら夫婦になったといえど、突然幻灯火様が近い距離に来るのは恥ずかしい。
ふわり、と香の香りがした。
これは以前、私が贈ったものだった。
部屋で焚いてくれたのかな、と想うと嬉しくなる。
「ああ、蝦夷のことか・・・」
「すいません、幻灯火様」
蝦夷には良い思い出はないだろう。
そんな大事なことに気が回らなかったことを申し訳なく思い、書物を閉じようとすると幻灯火様がそれを制した。
「いや、気にすることはない。
自分の知らないものに興味を持つのは良いことだろう?」
「・・・ありがとうございます」
それから二人で寄り添って書物を読んでいると、お腹の鳴る音が聞こえた。
「・・・幻灯火様?」
「そういえば腹が減ったな」
日も随分昇っていた。
書物に夢中になって、ついつい昼食の時間を忘れてしまった。
「申し訳ありません!すぐ支度を!」
「いや、いいんだ。急がなくて」
書物を机の上に置き、立ち上がると手を幻灯火様に掴まれた。
「急がなくてもいいのだが、詞紀・・・」
「はい・・・」
真剣な瞳で幻灯火様に見つめられて、心臓が跳ねる。
「私はちまきが食べたい」
「・・・・」
あまりにも真剣な瞳をしていたので、何を言われるのかと思ったら。
ああ、幻灯火様らしいな。
「分かりました。それでは折角ですから一緒に作りましょう」
「それは良いな」
幻灯火様の手を引っ張り、立ち上がらせると二人で台所へと向かった。
「なぁ、詞紀」
「はい?」
「お前がもっと色んな世界を見て見たいのなら、いつか一緒に行こう」
「よろしいのですか?」
「ああ、私はお前と生涯共にするのだから。
遠慮はいらない」
「ありがとうございます!」
台所までの道のり、私たちは手を繋いでそんな幸せな話をした。