伝えられない昼(淵関)

先日のことだった。
宴のあった翌日、目が醒めたら俺の隣で関羽が寝ていた。
なんで寝てるのかよく分からなかったが、あいつが隣で眠っていることに妙に安心して眠りなおした。
あの時気付いたことは、俺があの女を好きだということ。
最近、異性と触れ合うことも面倒になって避けていた俺がまさか関羽を好きになるだなんて思っていなかった。

 

(好きだっていってもなぁ・・・今更、どうすれば)

正直、俺は女に不自由する奴じゃない。
それなりに寄って来るし、それなりに遊んだ。
だけど、自分から誰かを好きだと意識した事なんてなかった。
それも十三支の女だ。
思い悩みながら街をうろついていた。

「そこのお兄さん!」

「ん?」

声をかけられた方を向くと装飾屋だった。

「ちょっと見ていかないかい?彼女にでも贈ると喜ぶよ!」

「ああ?」

店主なのか分からないが、俺より大分年が上であろう女性がそう言う。
仕方なしに見てみると、確かに女が喜びそうな装飾品ばかりだ。
手にとって見ると、キラキラと光の差し込み加減で色が変わって見えるそれは俺から見ても綺麗だ。
あいつの髪に似合うだろうか。
確か、普段も飾りをつけていたがいつお同じものだ。
女という生き物は装飾品を沢山持っていて、気分によって変えたりするものだろう。
でも、あいつはそういう事を一切しない。
あれが気に入ってるからなのか、なんなのかは全く分からないが・・・

「これをくれ」

「はい、毎度」

翠と蒼が散りばめられた装飾品を選び、俺はそれを買って戻った。

 

 

「あら?夏侯淵」

関羽を探してうろうろとしていると、あいつが本当に俺の目の前に現れた。
書物を平積みにしており、両手が塞がっていた。

「・・・何してんだ」

「これ?夏侯惇に持ってきてほしいって頼まれた書物」

「・・・っ!よこせ」

書物を関羽の手から奪う。

「え、でも・・・」

「兄者はどこにいるんだ?」

「広間にいるわ。
あの、ありがとう。夏侯淵」

目的地を聞くと俺はずんずんと歩き始めた。
その隣を歩く関羽。
ちらりと隣を見ると、なんだか嬉しそうな顔をしていた。

「何が」

「だって代わりに運んでくれるから」

「うるさい!黙れ、馬鹿!」

「ふふ、分かったわ」

何が分かったというのだろうか。
それでも嬉しそうに笑う関羽に俺はそっぽを向くことしかできない。

 

「兄者!」

「おお、夏侯淵と関羽か」

兄者は広間で郭嘉と何か相談をしているようだった。
俺が書物を二人の近くに置くと、郭嘉がにやりと笑った。

「あれー?それって関羽さんに頼んだんじゃなかったでしたっけ?
夏侯惇さん!」

「ああ、そうだが」

「ばったり廊下で会って、夏侯淵が持ってくれたの」

「へぇ~、意外に優しいんですね?」

にやりと笑って俺を探るように見てくる。
そのしぐさに苛立った。

「うるさい!行くぞ、関羽!」

「え?ちょっ、」

「うるさい、黙れ!」

関羽の手を取って、無理やり引っ張って広間を後にする。
関羽が何か言ってるのが聞こえるような気はするが、そんなのは後だ。
庭に出て、ようやく腕を解放してやる。

「夏侯淵?どうしたの?」

「・・・これ、やる」

先刻、購入した装飾品を手渡す。
関羽は不思議そうにその包みを見ていた。

「開けてもいい?」

「勝手にしろ」

ガサガサ、と音がして先ほどの装飾品が出てきた。

「凄い・・・きれい」

目を輝かせる関羽を見て、内心胸をなでおろす。

「お前、全然女らしくないから」

「え?」

「いっつもおんなじ髪飾りだろ?たまには違うのしろよ」

「・・・ありがとう、夏侯淵。
そうね、あんまりそういうものに興味なかったから・・・夏侯淵が気にしてくれて、嬉しい」

嬉しそうに笑う関羽は、驚く程可愛かった。
だから気付いたら、抱き寄せていた。

「っ、夏侯淵っ?」

腕の中で驚きの声をあげているが、そんなもの関係ない。
関羽の首筋に顔を埋めると、そのまま首筋に噛み付く。

「っ!」

「うるさい、馬鹿・・・」

俺がここまでしてるんだから気付け。
気付いて、俺のことを好きになれ。

 

 

そんな事言えずに俺は黙って関羽を抱きしめ続けた。

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