そろそろ二人の仲が進展してもおかしくないだろう。
俺は一人何度も頷きながらルシアの淹れてくれた紅茶を飲んでいた。
「キョウゴ、今日はもう空いてるの?」
「あ、ああ」
「じゃあ今日はお夕飯食べていって!
私、腕によりをかけてご飯作るから」
花が咲いたような、といっても大げさじゃないと思う・・・ルシアの笑顔は。
元々柔らかな空気を纏ってるから癒し系だし、誰にでも優しいからこいつを狙ってる男だって少なくない。
まぁ、俺がいるってことは周囲の目から見ても明らかなので、さすがにちょっかい出してくる奴は減ったが。
気を抜いてる場合じゃない。
時間を見つけてはココノココノに顔を出すようにはしてるが、
なんていうか、こう・・・発展がない。
「なあ、ルシア」
閉店の時間も迫り、店内には俺とルシアしかいない。
食器を鼻歌まじりに洗うルシアを俺はじっと見つめていた。
目を伏せた感じが綺麗だな・・・
「なに?」
「今日、泊まっていってもいいか?」
「本当?嬉しいっ」
手元から俺へ目線を移動させて嬉しそうに笑う。
こいつ、意味分かってないんだろうなぁ・・・
思わず苦笑しそうになったが、喜んでくれた事に俺も嬉しくなる。
「看板片付けてくるな」
なんだか気恥ずかしくなり、俺は残りの紅茶をぐいっと飲み干すと席を立った。
いざ、二人きりの空間になると気恥ずかしい気持ちになる。
今までルシアだけ見つめてきたんだ、どうしていいか分かんないんだ。
ルシアを大事にしたいという気持ちと抱きしめてめちゃくちゃにしたい気持ちがせめぎあう。
小さくため息をついて、俺は店の中へと戻った。
その後はみんなでルシアの作った夕食を食べ、ティオは夕食を食べ終わると部屋に閉じこもって絵に専念。
ほりックマは何してんのか分かんないが、マスターが使っていた部屋にいるようだ。
ルシアは片付けが済むと沸かしたばかりの風呂を俺に勧めてくれたのでそれに頷くことにした。
ルシアが用意してくれた着替えはマスターのものかと思ったが、そうではないようだ。
シャツとスウェットなんだけど、マスターがこういうのを着るとは思えない。
「ルシア、上がったぞ」
「湯加減どうだった?」
「ちょうどよかったよ、ありがとな。
ところで、この服なんだけど」
「サイズ大丈夫?キョウゴがいつ泊まりにきてもいいように買っておいたの!」
「っ!」
その言葉に思わず顔が熱くなる。
「じゃあ私もお風呂入ってくるね」
「あのさ、」
俺の横を通ろうとしたルシアの腕を掴む。
触れた部分が熱い。
「今日・・・お前の部屋で一緒に寝てもいいか?」
「っ・・・!」
意を決してその言葉を言うと、ルシアが真っ赤になる。
「あの・・・私も、そうしたいなって思ってたの」
じゃあお風呂入ってくるから!と俺の腕を振り払って消えてしまった。
心臓に悪い。きゅっと締め付けられるようだ。
ルシアの部屋でルシアが戻ってくるのを待っている時間がとても長く感じられた。
時間としては1時間も経っていなかっただろう。
がちゃ、とドアノブをまわす音がすると俺は思わず身体に力が入った。
風呂上りのためか、いつもより頬が赤くなっているルシアの姿を見て、理性が少しずつどこかへといく。
「おかえり、」
「ただいま。遅くなってごめんね?」
「いや、」
ルシアはベッドに腰掛けていた俺の隣に遠慮がちに座る。
「キョウゴとこんなにゆっくり一緒にいられるのって久しぶりだから嬉しい」
「ん、俺も」
肩をそっと抱くと、ルシアの身体に力が入るのが分かった。
「緊張してる?」
「キョウゴは・・・しないの?」
おそるおそるといった風に俺を上目遣いに見つめてくるルシアに愛おしさが募る。
「緊張するに決まってるだろ。
俺がどれだけお前を好きか、分かってんのか?」
額にそっと口付けると、恥ずかしそうに微笑まれる。
「良かった、私だけじゃなくて」
きゅっと俺に抱きついてくるルシアをそっと抱き返して優しいキスをする。
仲を進展させたいとか、いろいろと考えていたけど。
「今日は昔話でもしながら寝るか」
「うん!」
今はもう少し、このじれったい距離感でもいいのかもしれない。
一緒にベッドへ入り、ルシアに腕枕をしてやる。
積み重ねていく時間を大事にしたい。
急がなくても俺達はこれからもずっと一緒なんだから。