「吉成さん、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます~!!」
「おめでと、吉成さん」
今日は俺の誕生日。
星野さんと香月くんに迎えられ、星野家で俺の誕生日会を開いてくれた。
しかし、香月くんの目は時折(なんで二人で出かけないんだ)という強い訴えが伝わってくる。
(本当は誘おうかと思ったんだけど、自分の誕生日にデートしてくれって断られたらちょっとっていうか、大分凹むなってうじうじしてたとはさすがに香月くんには言えないなぁ)
お花見をした日に、星野さんには気持ちを伝えた。
その後、仕事が忙しくなり、なかなか星野さんに会う時間も取る事が出来ず、現在もお返事は保留のままだ。
星野さんの手料理を存分に楽しんだ後、出てきたイチゴのホールケーキにはチョコレートのプレートが載っていて、そこにも「吉成さん、お誕生日おめでとうございます」と綺麗な文字で書かれていた。
「凄い豪勢っすね、このケーキ」
「プレートまではやりすぎだろって言ったんだけど、市香のやつノリノリでプレートまで書いたんだよ」
「え!?これ、星野さんの字ですか!?」
「やっぱりやりすぎでした?」
星野さんは恥ずかしそうに俺を見つめる。ああ、その顔めっちゃ可愛いです。
「いえ!!!めっちゃくちゃ嬉しいです!!!それにこの字凄い綺麗っすね?びっくりしました!」
「喜んでもらえたなら良かったです…!」
星野さんが安心したように笑う。すると香月くんは俺をちらりと見てから。
「あ、飲み物切らしたみたいだからコンビニ行ってくる」
「え?香月の好きなジュースなら冷蔵庫にまだ入ってるよ」
「急に炭酸が飲みたくなったんだよ! じゃ、吉成さん。後よろしく」
財布を掴むと、香月くんはあっという間に部屋から出て行ってしまった。
これはもしかしなくても香月くんが気を遣ってくれた奴では…?
ホールケーキを切り分け、お皿に一番大きいケーキとプレートを乗せてくれる。
「吉成さんは紅茶でも良いですか? それとも香月が買ってくるの待ちましょうか」
「いえ! 紅茶が良いです!!!紅茶が飲みたいです!」
「ふふ、分かりました。ちょっと待っててくださいね」
そう言って星野さんはキッチンへと移動する。その後ろ姿を見つめながら、俺は想像する。
星野さんと付き合ったらこんな感じなのかなぁって。
会えば会う程、好きだと思う。
好きになればなるほど、自分の事も好きになってほしいと思う。
そういう貪欲な気持ちを自分が持っていた事に驚かされるばかりだ。
このままではいけない、と俺は立ち上がりキッチンにいる星野さんの隣に立った。
「星野さん」
「どうかしましたか?」
「俺、今日誕生日なんです」
「ふふ、そうですね」
優しく笑う星野さん。その笑顔を独占したいなんて言ったら笑われるだろうか。
「それで、欲しいものがあるんです」
「ええと、今からでも間に合いますか? まだ遅くない時間だから買いに行けると思いますけど」
「買い物に行かなくても大丈夫です。それに星野さんにしか叶えられないものなんです」
俺はそっと星野さんの手を握る。
小さくて、細い手。この手を、あなたを守りたい。俺は今でもそう思ってるんです。
「あなたを、名前で呼びたい。
そして、俺の名前をあなたに呼んでほしい。そういう関係が、欲しいんです」
俺の言葉で、星野さんの顔が赤く色づいた。
「…それは誕生日の贈り物には無理かと」
「ああ、ですよねー」
一瞬期待してしまって、がくっと肩を落とす。
すると、星野さんがくすりと笑った。
「その関係は、私も欲しかったんです。
…言うのが遅くなっちゃいましたけど、秀明さん、私もあなたが好きです」
そう言って、はにかむような笑顔を見せてくれた星野さんは今までみたどんな笑顔よりも可愛すぎて、俺は思わず強く抱きしめていた。
「きゃっ!」
「好きです、大好きです!これからずっと大切にします!」
決意を口にすると腕の中に閉じ込められた星野さんはまた笑って。
「はい、私も大切にしますね」
と漢前な返事を返してくれた。