君は可愛い(ソウヒヨ)

「凝部くんもこれ食べる?」

放課後、凝部くんの家に遊びに来た私はカバンの中から小さな包みを取り出した。
それはお父さんにもらったチョコレートだった。なんでも会社でもらったらしいが、甘い物が得意ではない父が私にくれたのだ。
パッケージからしてなんだかお高そうにみえたので、せっかくなら凝部くんと一緒に食べようと持ってきたというわけです。

「何それ」
「開けてないから分かんないけど、チョコじゃないかな?」

パソコンの前にある椅子に座っていた凝部くんはくるっと回転し、私の方を向く。
私はその隙に包みを開く。包装紙を丁寧にはがし、箱を開くとそこには宝石箱に納まっていてもおかしくないチョコレートが4つ入っていた。
椅子から降り、中身を覗き込むように私の正面に凝部くんがやってきた。

「すごい高そう」
「ヒヨリちゃんパパ、モテるんだね☆」
「えー、そうかなぁ」
「本気を感じるチョコレートだと思うけどな、僕は」
「私もそう思うけど…お父さんは開けてないから知らないよ」
「ふーん、じゃあ僕たちで証拠隠滅、しちゃう?」
「証拠隠滅って…でも美味しそうだしたべよっか」

紫色に輝くチョコレートを選んで、私はそれを口に運ぶ。
凝部くんは赤みがかったチョコレートをひょいと口に投げ込んだ。

「ん、これなんだか大人の味だ…」

口の中に広がる濃厚な味はチョコレートのそれだけではなく…お菓子に使うラム酒をとてもとても上等にしたような味だった。

「でも美味しい。ね、凝部くん」
「え? ああ、そうだね」

勢いのまま、もう一個も口に運ぶ。
口の中であっという間に消えてしまったチョコレートが名残り惜しくて私は口の端をぺろりと舐める。
そんな私をじっと見つめている凝部くん。
不思議に思って小首をかしげながら彼に尋ねる。

「凝部くん、食べないの?」
「うん、食べるよ」

最初よりも重い動作で、凝部くんはチョコを平らげた。

「もしかしてあんまり口に合わなかった?」
「口にあわないていうか、ヒヨリちゃんは全然平気なんだ?」
「え、何が?」

聞きたい事が分からず、私はさらに首をかしげる。
そんな私を真似して、凝部くんも同じ方向に首を傾けた。

「何可愛い事してるんですか、俺の彼女は」
「それを言うなら凝部くんも可愛い事してるんじゃないんですか」
「ええー」
「ええーはこっちの台詞だよ」

私の真似をするなんて妹みたい、と心の中で思ったけどそれは言わないでおく。
すると凝部くんはそのままゆっくりと横にころんと倒れた。

「ええ、どうしたの?」
「どうもしませーん」
「どうもしなかったら寝転がらないでしょ」
「じゃあ、俺がどうかしたって言ったらヒヨリは俺の事、甘やかしてくれる?」

寝転んだ姿勢のまま、凝部くんは私に手を伸ばす。
その手を握ると、いつもより熱くてぎょっとした。

「え、凝部くん熱でもあるの?」
「熱はないんじゃないかなー」

よく見ると、仄かに顔が赤い。
ずりずりと移動して、凝部くんの頭を私の膝に乗せると、凝部くんは驚いたように目を丸くした。

「え、何この超展開」
「甘やかしてほしいんでしょ?凝部くんの彼女なんで、これくらいはするよ」
「普段はしてくれないのにー」
「普段だって、言われたらするよ。多分」
「ほら、多分じゃん」
「はいはい。もしかしてチョコレートのせい?」
「へぇー、ヒヨリちゃんは僕がそんなやわに見えるんだ」
「見えないけど、もしかしてって思ったんだけど」
「キミは案外強そうだもんね」
「え、そう?」
「今だってケロリとしてるじゃん」
「それは、そうだね」

ちょっとラム酒がきついけど美味しいチョコでした。
凝部くんはじぃっと私を見つめて、それからはぁーっと盛大なため息をついた。

「本当なら酔っちゃったキミを介抱するとかの方がおいしいのに」
「それは大人になったら試してみようね」

お酒を飲んだらどうなるかなんてまだ分からないし。
ゆっくりと凝部くんの頭を撫でる。さらっとした指通りの良い髪が心地よい。
観念したのか、凝部くんはされるがまま受け入れる。

(凝部くんは可愛いなぁ)

「言っておくけど、キミの方が可愛いからね」
「え、声に出てた?」
「顔に出てましたけど?」
「さすが凝部くん☆」
「あーーもう!」

ふてくされたように凝部くんは私のおなかに顔をくっつけてぎゅっと抱き着いてくる。そういうところが可愛いって思うんだけどな、なんて今度は顔に出さないように気を付けよう。

「復活したら押し倒すから」
「うんうん、そうだね」
「本気に取ってないでしょ、ヒヨリちゃん」
「さあ、どうでしょ」

ふふっと笑う。
私の彼氏は可愛いな。誰にも教えたくない彼の一面をまた一つ知ってしまった。

 

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