幸くんの作る衣装は素晴らしい。
舞台の上で栄えるように、お話にあった衣装を作ってくれる。
夏組の第三公演のテーマは野球。
台本を読んで、誰がどの役か決まった後にはもうラフデザインを描いていた。
今回はどんなデザインの衣装が出来上がるんだろうとワクワクしていると、何度目かの稽古の後に幸くんはサイズ合わせ出来る段階まで仕上がった衣装をみんなに着せた。
「うんうん!似合ってるね!」
野球のユニフォームに包まれた夏組メンバーを見て、満足げに頷いていると「あ、椋。ちょっと動かないで。そこ止める」と椋くんの衣装をチェックしている幸くんの姿を見つけた。
椋くんの前に膝をついて、テキパキと作業をする幸くんに感心していると、ふとスカートの裾から覗く太ももに目がいってしまった。
(なんだか見てはいけないものを見てしまった気がする…)
いけない事をしてしまった気分になり、私はさっと幸くんから視線を外した。
衣装合わせも無事に終わり、みんなが衣装を幸くんに返した後、私も手伝おうと幸くんの傍に寄った。
今日は太一くんが補習で遅れてるから助かると言って、自分の衣装を私に手渡した。その衣装を見て、ふとさっきの光景を思い出した。
「幸くんの足って綺麗だよね」
思わずぽろりと零れ落ちた言葉に、幸くんが怪訝そうな顔をして振り返った。
「何今更言ってるの」
「いや、今回の衣装ついつい幸くんのスカート丈に目がいっちゃって」
普段だってスカートをはいているんだから見慣れているんだけど、今回の衣装はいつもより短くて、女の私が見ていてもちょっとドギマギしてしまう。
「いや~、私はもうあんなスカート丈はけないかも」
だから幸くんの膝上スカートに緊張してしまうんだ。
照れ笑いを浮かべると、幸くんがはぁーーっとため息をついた。
私が持っていた幸くんの衣装を掴むと、私の前に合わせて見せた。
「アンタだってまだまだイケるじゃん」
「えっ?そ、そう?」
「俺が言うんだから自信持てば?
それに足は出さないとどんどん出せなくなっていくんだから…」
自分では見えないけど、幸くんが言うんなら大丈夫なのだろう。
私を励まそうとしてくれてる幸くんの気持ちが嬉しくて、気付けば微笑んでいた。
「ありがとう、幸くん」
「今度アンタに似合うスカート選んであげる」
「え、いいの?」
「だから…」
「うん」
「そのスカートを初めてはくのはオレの前にして」
心なしか赤くなった幸くん。
「うん、分かった」
小さく頷くと、なんだかほっとしたような表情を幸くんは浮かべた。
「舞台が無事に終わったら、行こうね」
新しい夏組の舞台が無事に終わった後のささやかな約束。
それを思うと、少し未来が楽しみになった。