戦が終われば、兵士たちを労って宴が開かれる。
宴となれば、お酒が沢山出てきて、みんな煽るようにお酒を呑んでいく。
曹操も例外ではない。
けれど、私は彼が酔っ払っている姿を見たことがない。
夏侯惇や夏侯淵だってお酒の席では顔を赤らめながら、いつもより上機嫌にお酒を呑んでるのに。
曹操はいつもどおり、淡々とお酒を呑む。
宴も終わり、曹操と私の部屋に戻った。
宴の席にいただけなのに、私は少し頬が火照っていた。
多分、お酒の香りにあてられたのだろう。
窓を少し開き、涼しい風を取り込む。
曹操はというと、寝衣に着替え終わるとまだ少呑むつもりらしく、
杯にお酒を注いでいた。
「曹操?」
「ん、どうした?」
「曹操はお酒に本当に強いのね」
「確かに酔わないな」
「凄いわ」
私も寝衣に着替え、曹操の隣に腰掛ける。
お酒を呑む曹操はなんだか色っぽい。
「お前も呑むか?」
「え、でも・・・」
「ここには俺とお前しかいない。
多少乱れても問題ないだろう?」
「乱れるって・・・」
猫族と暮らしている頃から私はお酒を口にした事がほとんどない。
一度、世平おじさんに一口もらったことがあったけれど、喉が焼けるように熱くて驚いてしまった。
「ほら」
「・・・いただくわ」
確かにこの部屋には私と曹操しかいないんだから、酔っ払ったとしても問題ない。
最初に口にした頃より大人になったわけだし、一口だけなら大丈夫かも。
曹操に手渡された杯におそるおそる口をつけ、こくりと飲む。
「どうだ?うまいか?」
「!
美味しいわ!」
以前口にした時のようなお酒独特の喉が焼けるような感じもなくて、さらりとして飲みやすい。
「以前、世平おじさんに一口もらったことがあったんだけど、それに比べるととても飲みやすいわ!」
「それはそうだろう。俺が呑む酒だ。安酒なわけがない。
折角なのだから俺に付き合って、もう少し呑め」
「これなら平気そうだから・・・そうね、付き合うわ」
曹操は杯をもう一つ用意し、それにお酒を注ぐと私の杯へと軽く触れ合わせた。
「ふふ、ありがと」
二人でこうしてお酒を呑む日が来るなんて思ってなかったから、とても嬉しい。
そんな事を考えながら私もお酒をもう一口、と呑み進めていった。
私はお酒をあまり呑む機会がなかったから知らなかったのだ。
呑みやすいお酒ほど、注意しなければならないことを。
「おい・・・関羽」
「ん・・・」
一杯呑み終わった頃には、関羽は顔を真っ赤にし、瞳を潤ませていた。
まさかそれくらいで酔っ払うなんて思っていなかった。
「そうそうがふたりいるわ」
「大丈夫か、お前」
とりあえずこういうときは水を飲ませればいいのか?と困惑しながらも水を持ってこようと
腰を浮かせると私の服の袖をぎゅっと掴まれた。
「そうそう、どこにいくの?」
「私はお前に水をだな」
「いや、どこにもいかないで」
懇願するように俺を見上げる瞳といつもより素直な言葉を紡ぐ唇が愛おしい。
そっと頬に触れると熱くなっていた。
「私がお前を置いてどこかに行くわけないだろう」
私はお前を手放すつもりなんてないんだから。
触れるだけの口付けを贈ると、耳がぴくぴくと動いた。
「関羽、愛している」
「わたしもよ」
関羽を抱き上げて、そのまま寝台へと運ぶ。
寝台に下ろすと離れまいと私の首に両腕を回してきた。
「関羽」
優しく名前を呼ぶと花が咲くように笑みを零す。
額、頬、鼻先、とゆっくり口付けていく。
くすぐったいのか、小さく声を漏らすその声に理性が飛んでしまいそうになるが、
酒に酔っている関羽を抱くつもりはなかった。
そんな時でなくても私はもう、関羽に触れることが出来るのだから。
「そうそう、あなたといられてわたしはしあわせ」
そう言うと、目を閉じてすぐ寝息を立て始めた。
「私もだよ、関羽」
お前が私に幸せというものを教えてしまったんだ。
だから、これから先もずっと・・・
「私と共にいろ」
髪を掬い上げてそっと口付け、横になった。
いつもなら私が抱きしめて眠るのに、今日は関羽が私を離すまいときつく抱きしめている。
今日はいつもよりよく眠れそうだ。