「王様だーれだ!」
いつもよりテンション高めなアキちゃんには今日が月曜日だということは関係ないらしい。
授業が終わって、放課後になると教室までやってきて、私を回収すると気付けば家でお茶を飲んでいる。今日のアキちゃんはとても行動が早い。
テンションが高い理由は分かっている。今日はアキちゃんの誕生日だから。
「王様じゃなくて、お誕生日様の間違いじゃないの?」
「うん、まあそうなんだけど」
アキちゃんは意を決したように私に向き直った。
「ねえ、アイちゃんオレのお願い聞いてくれる?」
「内容によるけど…出来る限りは」
宿題を代わりにやって、とかそういう事ではないだろうし。
…キスして欲しいとか言われたらどうしよう。
あまりにも真剣な瞳で私を見つめてくるから、なんだか恥ずかしくてアキちゃんから視線を逸らしたいのに逸らせない。
「アイちゃん、オレのこと抱き締めて」
「…え?」
そう言われて、時間が止まった気がした。
(…抱き締めるってハグみたいな?)
キスして欲しいって言われたらどうしようと考えていた自分が恥ずかしくなる。
穴があったら入りたいってこういう事だ。
「…いいよ」
「本当!?やったー!」
アキちゃんは万歳する勢いで喜んでいる。
熱くなった頬をおさえて、私は「ははは」と苦笑いする。
「それじゃあ、いい?」
「…はい!」
アキちゃんは深呼吸して、私に向き合う格好になる。
今までだって何度も抱き締めあった事はあるけど、改まって自分から抱きつくというのは非常に恥ずかしい。
アキちゃんは両手を広げたそうにしているが、それさえもぐっと堪える。
「いくよ…」
「うん」
そうは言ってもなかなかアキちゃんを抱き締める事が出来ない。
いつもアキちゃんがしてくれるみたいに両手を広げようかと思ってもそれさえも恥ずかしい。
「アキちゃん、あんまりじっと見つめないで」
「だって見ちゃうよ。こんな可愛いアイちゃん」
待てと飼い主に言いつけられた犬のようにアキちゃんは辛抱強く私が動くのを待っている。
「あ」
「え?」
視線をアキちゃんの後ろに移動させ、そう言うとアキちゃんはつられて後ろを振り返った。
今だ!と私は勢いに任せてアキちゃんの胸に飛び込んだ。
「-っ!?」
勢いに任せた結果、アキちゃんを押し倒すような格好になってしまった。
アキちゃんの胸に頬をくっつけると、心臓の音が聞こえた。
「アキちゃん、お誕生日おめでとう」
今顔を上げるのはあまりにも恥ずかしいから私はそのままの態勢でアキちゃんを抱き締める。
「~~~っ、オレが望んだ以上の事しちゃうなんてアイちゃん…!!」
盛大なため息をつくと、アキちゃんの手が私の腰当たりに回される。
「ありがとう、アイちゃん。すっごい嬉しい」
「…でもこのお願いはちょっと恥ずかしいかな。
来年は違うことにしてね……」
「うん…来年かぁ」
そう呟いくとアキちゃんは私をぎゅうっと抱き締める。
それから何も言わずに黙っていた。
「アキちゃん?」
不思議に思い、恥ずかしい気持ちを抑えながら顔をあげると、アキちゃんが涙ぐんでいることに気付いた。
「アキちゃん…」
「来年もアイちゃんとこうやって一緒にいられるんだって思ったらすっごい嬉しくて」
私と一緒にいられることをこんなにも喜んでくれる人がいるだろうか。
きっとどこを探してもアキちゃん以上に喜んでくれる人なんて存在しない。
「来年だけじゃないよ。再来年もその先もずっと一緒だから」
「うん、うん」
「お誕生日おめでとう、アキちゃん」
「ありがとう、アイちゃん」
これからきっともっとずっと大好きになる。
一つ大人になったアキちゃんの傍で私はそんな予感を感じていた。