覚めなければ夢だなんて気付かない。
それならいつまでも夢を見ていれば、それは私にとっての現実になる。
ねえ、そうだよね?
季節のなかでいつが一番好きだろうって考えると、私は夏が一番好き。
「ねえ、ナッちゃん。ナッちゃんは季節の中でいつが一番好き?」
私は隣を歩く大好きな人にそう問いかける。
「うーん、そうだなぁ。夏かなぁ」
「やっぱり?私も夏が一番好き!子供の頃、陽が長くなるから喜んで外でいっぱい遊んだよね」
「ああ、そうだったね」
ナッちゃんの受験勉強の息抜きという名目で二人で水族館へ行かないかと誘われた時には凄く喜んだ。
何を着ていこうかを悩み抜いて前日の夜には決めたはずなのに、朝起きて用意してあったワンピースを見た時に「これじゃない」って思ってしまった時はもう約束の時間に間に合わないんじゃないかと泣きそうになった。
「アイちゃん、今日のワンピース可愛いね。似合ってる」
「そうかな?ありがとう」
ナッちゃんに褒められて、悩んだ甲斐があった!と笑みが零れる。
「あのね、アイちゃん」
「うん、なに?」
ナッちゃんは照れくさそうにポケットから小さくてカラフルな袋を取り出すと私にそっと差し出した。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
ナッちゃんの了承を得て、私は袋をあける。
そこには四葉のクローバーをかたどったヘアピンが入っていた。
嬉しさと驚きのあまり言葉を失っていると、ナッちゃんが心配そうに口を開いた。
「アイちゃんに似合うかな?って思ったんだけど、どうかな。気に入らなかったかな」
「ううん!!!そんな事ない!!すっごく気に入ったよ!!」
興奮気味にそれを否定すると、ナッちゃんは安心したように私の大好きな笑顔を見せてくれる。
「じゃあつけてあげるよ」
「え?」
私の手からそれを取ると、ナッちゃんは優しい手つきで私の髪をすくうと髪につけてくれた。
「どうかな?似合う?」
「うん、すっごく似合ってるよ」
「ありがとう、ナッちゃん。大切にするね」
今日は水族館に二人で行けるだけじゃなくて、こんなに嬉しい贈り物もしてもらってなんて素敵な日なんだろう。
頬が緩むのが抑えられない。
「えへへ、なんだかすっごく幸せだね」
「……僕も幸せだよ」
そう言って、ナッちゃんはどこか淋しげに微笑んだ。
目が覚めればあなたはいないって事、現実の私は知っている。
だけど、夢の中の私はそんな事知らないで大好きな人の隣で笑ってる。
だから夢の私にとって、それは現実なの。
奪わないで、私の世界で一番大好きな人を。
朝が来るまでは、どうか。