一人だった夜、二人になった朝(景市)

時折考えるんだ。
もしも、君に何かあったら。
正義感が強くて、誰にでも優しい君だから困っている人を見つけたら迷わず手を差し伸べてしまうんだろうな。
でも、君は警察官だから。
普通の人よりも事件に巻き込まれる危険性があるから…
君の身に何かあったらどうしよう、と心配になるんだ。
君が命を脅かすような怪我を負ったとしても、俺は君の手を握る事さえもできないんだ。
塀の中、俺はただその事だけを心配していた。
君が傷つきませんように。
優しい君がこれ以上傷つくことがありませんように、とひたすら強く願っていた。

 

 

 

****

「景之さん、起きましたか?」

「…市香ちゃん」

ベッドの中、目を覚ますと俺を見ていたらしい君と目が合う。
まだ寝ぼけている頭で、俺は手を伸ばして市香ちゃんの頬に触れた。

「ああ、いる…」

「いますよ。ずっと一緒にいたじゃないですか」

「そうだね、うん。そうだ」

昨日も一昨日もその前も一緒にいた。
俺が刑期を終えて、出てきてから離れた日なんて一日もない。

「市香ちゃんはいつ起きたの?」

「私も今さっきです」

「ふーん」

その割に頭がはっきりしているように見える。
市香ちゃんは起きてすぐは眠そうな目で俺を見つめるんだ。
そのとろんとした目つきが可愛くて、俺は市香ちゃんを起こしてからいつもの調子になるまでの彼女を見ているのが好きだった。

「嘘です。本当は大分前に目を覚ましてました」

「だよね」

「景之さんがうなされているように見えて、起きちゃいました」

「ああ、それはごめん」

「いいえ。私の名前、呼んでたから」

今度は市香ちゃんが俺の頬に触れた。
その手が愛おしくて、俺はその手をきゅっと握った。

「おっちょこちょいな君が泣いてないか、ずっと心配してたんだ」

「おっちょこちょいじゃありませんよ。柳さんからは優秀になったって褒められましたし」

「ふうん」

「でも、たまに泣いてました」

「…ごめんね」

俺がいない時間、どんな風に過ごしていたかは聞いている。
だけど、数え切れない夜。市香ちゃんは何度俺を思って泣いただろう。
申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが混ざり合う。

「でも、これからはずっと一緒です」

「うん、そうだね」

俺の帰る場所は、いつだって君のところだから。
俺がそう言うと、市香ちゃんは嬉しそうに目を細めて笑った。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (18)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA