大きな事件が解決したとしても、私たちは警官だ。
事件がなくならない限り、忙しい日々に身をおくことになるのは仕方がないこと。
シフト制の休みをあわせることの難しさは、例えば同期の飲み会を開くときにも痛感していた。
あー、今回はあの子がいない。どの子がいない。
寂しいな、と思う気持ちもあるが、仕方がないと思っていた。
だけど。
恋人となれば話が変わってくる。
すれ違いの生活。
仕事が終わる時間も一緒なわけがなく、休みも重ねることなんて滅多にない。
そして、なおかつ…
「そろそろ時間になっちゃいます」
「ん」
そう言いながらも笹塚さんは私を壁際へ追いやって、離れようとしない。
香月から言い渡される門限を破るのは何度目だろう。
その度に香月からお小言を言われ、何ともいえないため息をつく弟を見るのが少しだけ心苦しい。
香月が独立するまでは、一緒に暮らしたい。
笹塚さんは私のその言葉を反故にする気はない。
だけど、一緒に過ごす時間が限られている私たちにとっては、門限という制限はかなり厳しいものだ。
何度も落とされる優しいキスに、帰りたくないなぁなんて気持ちも浮かぶ。
だけど、きっと香月はまたため息をつくだろう。
「ささづかさ、」
また唇を塞がれる。
それをさっきから何度も繰り返し
「-っ、」
私は笹塚さんの唇を両手で塞いだ。
「…市香、この手はなんだ」といいたそうに睨む瞳に私は困ったように目の前の人を見つめる。
「もう駄目、です」
舌打ちが聞こえ、笹塚さんが私からようやく離れた。
私を送るために上着を羽織ろうと背を向けた笹塚さんに、たまらない気持ちになる。
「笹塚さん…」
思わず後ろからしがみつくように抱きつく。
離れたくない、なんて口に出来ないけど。
「おい、バカ猫。いつかの再現か」
「いえ、そんなつもりはないんですけど…笹塚さんの背中って抱きつきたくなるというか」
「このままベッドに引きずり込むぞ」
「それは…ダメです」
「なら…」
「だけど、今度は…香月から外泊許可もらってくるんで」
弟に外泊許可をとるというのは、酷く気恥ずかしいけれど。
ぎゅっと強く笹塚さんを抱き締めた。
「手、離せ」
「…」
言われて、笹塚さんから手を離す。
振り返った笹塚さんは珍しく少し赤くなっている…ような気がした。
「覚悟しておけよ」
そう言って、また優しいキスをしてくれた。
「…笹塚さんこそ覚悟、していてください」
「へぇ、言うようになったな」
にやりと笑った笹塚さんに、言いすぎた気もしたけれど。
そろそろ笹塚さんともっといっぱい一緒にいたいという気持ちが燻っていたから良しとしよう。
そんな事を考えながら、身支度を整えて、外に出ると当然のように笹塚さんの腕に自分の腕を絡めるのだった。