「はい、ローエン」
「…これはなんですか?」
「短冊だよ」
「たんざく…はぁ」
私が差し出した短冊を受け取ると、ローエンは困ったような顔をした。
「そっか。魔界には七夕なんてないよね。七夕っていうのはね、年に一度織姫様と彦星様が会える日で・・・」
「存じていますよ、そんな事。ワタクシは博識ですから」
(・・・自分で博識っていっちゃうんだ)
ローエンはペンのキャップを外し、短冊に何を書こうか考え込みはじめた。
私はその様子を少しウキウキと見つめていた。
「どうしました?そんなにじっと見つめて。見惚れていましたか?」
「-っ!ち、違うよ!ローエンが何を書くのかなぁってわくわくしただけだよ!」
「ワタクシが書くことが気になりますか?」
「うん」
「そういうアナタは何を書いたんですか?」
「みんなが仲良く暮らせますようにって書いたよ」
「なんという面白みのない」
「だって大事なことでしょ?」
兄さんもようやくローエンと一緒に暮らすことに納得してくれるようになったけど、まだちょっと二人はぎこちない。
だからもう少し仲良くなってくれたら嬉しいなぁっと常々願ってしまう。
「まぁそうでしょうけど」
ローエンはさらさら、と短冊に文字を書くと、私に見えないようにひっくり返してしまう。
「あ、」
「ほら、短冊をつるしにいきましょう」
ローエンのお願いが見えなかったことにがっかりしていると、立ち上がったローエンは私に左手を差し出した。
そういう優しさで誤魔化されないんだから・・・と思いつつも、差し出された手を取る自分の頬は緩んでいただろう。
手を繋いだまま移動し、庭へ出ると兄さんが用意してくれた立派な笹の木があった。
「アナタの短冊はどこですか?」
「私のはこれだよ」
少し上の方に吊るしてある私の短冊を指差すと、ローエンは何も言わずにその傍に自分のものを吊るした。
「七夕の日にしか好きな人に会えないなんて可哀想だなって、初めて聞いた時思ったんだ」
「年に一度でも慕っている相手に会えるのだったら良いんじゃないですか」
吊るし終えると、離れていた手が、もう一度つながれる。
「もしも、アナタに禁断のグリモワールが宿らなければワタクシはきっとアナタにお会いすることはなかったでしょう」
もしもグリモワールなんてものが存在しなければ、今もローエンはマキシスの傍にいたのかもしれない。
そう思うと少し・・・胸が痛い。
「615年に一度しかない奇跡が、ワタクシとアナタを結んだんですよ。
七夕なんてどうってことないでしょう」
「・・・うん、そうだね」
私の勘違いかもしれないけど、ローエンの頬が心なしか赤くなっているように見えた。
吊るし終えたローエンの短冊が風に吹かれて揺れると、ローエンの書いた言葉が飛び込んできた。
-いつまでも傍にいられますように
ささやかな願い事が愛おしくてつないだ手を強く握り締めた。