指きり(ローリツ)

※ヒトEND

 

 

「ふう」

「ため息をついて、どうしました?」

「ううん。兄さんは手ごわいなーって」

全てが終わり、ローエンは私の傍にいてくれる。
母さんがいて、兄さんがいて、アズナがいて・・・そしてローエンがいる。
私が欲しかった穏やかな幸せが今ここにある。
グリモワールで散々な目にあっていた頃とは比べ物にならないけど、兄さんは手ごわい。
予想していた通り、ローエンが一緒に住むことに猛反対だ。
そもそも恋人になったことに対しても不満げに見える。

「初めから分かっていたことでしょう、それは」

まるで他人事のようにローエンは言う。
これは二人の問題なのになぁ・・・と不貞腐れ気味にローエンの肩にもたれかかる。

「どうされました?」

「二人のことなのに、ローエン冷たい」

「アナタのお兄さんが厄介だということは初めから分かっていたことでしょう。
想定内のことでいちいち一喜一憂しませんよ、ワタクシは」

「そうだけど」

母さんは一緒に住むことに同意してくれてるし、歓迎してくれている。
ローエン用の部屋も決めることが出来たし、兄さんも家からたたき出そうとまではしていないけど・・・

「ローエンだって居辛いでしょ?このままだと」

一つ屋根の下で暮らすのだ。
やっぱり拒まれた状態というのはローエンだって嫌だろう。
一度、兄さんと気まずい状態が続いた時・・・家にいても落ち着かなかったことを思い出す。
ローエンにそんな思いをさせたくない。

「たとえ誰に疎まれようとも、ワタクシはアナタの傍を離れるつもりはありませんよ」

ローエンの手が私の頭に触れる。
ゆっくりと私の頭を撫でてくれるその手にほっとする。

「気持ち良いですか?」

「うん、とっても」

「そうですか、それは良かった。アナタは犬の姿のワタクシを撫で回すのがお好きだからきっと撫でられるのもお好きだと思っていました」

「それはなんだか違うけど・・・でも、ローエンに触れられると安心する」

目を閉じるとそのまま眠ってしまいそうになるが、心地よくて自然と目を閉じていた。
しばらく何も言わないでなで続けてくれていたが、ふと手が止まった。その次に、私の唇にやわらかい何かが触れる。
驚いて目を開くと、そこにはローエンの顔があった。

「・・・っ」

「ん・・・」

キスされるなんて思っていなかったから驚いてそのままローエンの顔を見つめる。
こんなに近くで顔を見つめることなんてないから、意外と睫が長いことに今気付かされる。

「リツカ、口付けをするときは目を閉じるのが淑女の嗜みですよ」

「だ、だってローエンがいきなり!」

「アクマに隙を見せるのがいけないんですよ。
それでは今から口付けをしますので、目を閉じていただけますか」

「そんな風にいわれたら恥ずかしくて出来ないよ!」

顔を真っ赤にして反論する私にローエンは満足そうに微笑んだ。

「少しは元気が出ましたか、リツカ」

「・・・ローエン」

「ワタクシの居場所はアナタの隣です。誰が何と言おうがそれは揺らぎません。
・・・ですが、アナタとの仲をアナタの家族に認めていただくことも必要ですから。私は諦めませんよ。」

「・・・うん、約束ね」

ローエンに向かって小指を差し出すと、ローエンもそこに小指をからめた。

「ええ、約束です」

指きりすると、私達はどちらからともなくもう一度キスをした。
今度はきちんと目を閉じて-

 

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