夫婦というものは生涯を共にする。
どちらかが死ぬまで、生涯を共にしたいと私は思ったから孫権様の言葉に頷いたのだ。彼の隣は陽だまりのなかお昼寝をしているような心地よさを感じる。
だけど、たまに彼が見せる男の人の一面に私はどうしようもなく動揺してしまう。
だから今、とっても驚いている。
「・・・孫権様、あの・・・」
「ん、やっぱりあなたに似合うと思ったんだが正解だったようだ」
孫権様が私の髪に髪飾りを当ててみて、小さく笑った。
その表情に見とれてしまう。
私にむかって微笑んでくれるだけでこんなにも嬉しくなんて。
「もしかして、嫌だったか?それなら申し訳ない」
「あ、いえ!そうじゃなくて、とっても嬉しいです!」
あてていた髪飾りを離すと、そのまま離れようとする孫権様の手を慌てて掴んだ。
「孫権様が私のために選んでくれたことも凄く・・・凄く嬉しいです」
「そうか・・・あなたが喜んでくれて良かった」
孫権様のことを知るたびに好きになっていく。
自分でも驚くくらい、私は孫権様が好きなのだ。
孫権様が贈ってくれた髪飾りをつけ、鏡の前でにこにこしていた。
いつも紅色の髪飾りをつけていたけれど、孫権様が選んでくれたものは孫権様の髪の色に似た黄緑色や黄色、といったいつもとは違う色合い。
孫権様が選んでくれたことも嬉しいし、それがまた普段の自分と違う雰囲気のもので似合うということも嬉しい。
簡単にいえば浮かれているのだ。
孫権様になにか贈り物がしたいと想い、私も時間をみつけてはお店を見てはみるがピンと来るものが見つからない。
「お嬢さん、珍しい織物が入ってるんだけどどうだい?」
お店の人に誘われるがまま、覗いてみると綺麗な織物だった。
色合いもとても鮮やかで目を奪われた。
こういうものなら・・・でも、服を仕立てるのは難しい。そもそも国を治めるあの方が身にまとうものだと思うとさすがに贈れない。
(でも、こういうものも素敵・・・)
どうしたものか考えていると、ふと猫族で暮らしていた日々を思い出した。
(・・・そうだ!あれをつくろう)
思い立ったらいてもたってもいられなくなり、私は材料集めに駆け出していた。
「孫権様」
「ああ、あなたか。」
執務が終わるであろう時間を見計らっていつもお茶をお持ちする。
筆を置いて、私が部屋にやってきたことを歓迎してくれるのだ。
「今お茶お持ちしますね」
「いつもありがとう。あなたがそうやってお茶をいれてくれることを私は楽しみにしているようだ」
「ふふ、そうだったら嬉しいです」
湯のみを運ぶと、孫権様はありがとう、と受け取ってくれる。
お茶を一口飲むと、ふぅと息をもらした。
「やっぱりあなたのお茶は美味しい」
孫権様の隣に座り、私もお茶を一口飲む。
ふと、私の髪飾りに目がとまったようで、孫権様は笑った。
「やっぱりあなたに似合う」
「・・・孫権様。手、出していただけますか?」
「ん?こうか?」
「はい」
急な言葉に不思議そうにしながらも孫権様は私に右手を差し出した。
用意してきたそれを右手首にそっと結ぶ。
「・・・これは?」
「私からの贈り物です。孫権様を想いながら作りました」
赤いガラス玉を中央に置き、黄緑色と黄色の糸で編みこんでみた。
これくらいなら普段つけていても邪魔にならないだろう。
「これをあなたが?」
私がつけたそれを孫権様は驚いたように目を丸くして見つめる。
それから私の右手も見せる。
「色違いで、自分の分も作りました」
私のものは黄緑色のガラス玉にし、紅色と黄色の糸で編みこんだ。
ふと考えた時、お揃いのものがないことに気付いた。
孫権様に贈り物をするなら、せっかくならお揃いのものしたくなり、猫族で暮らしていた頃にこうして作ったのを思い出しながら作った。
「こうやってお揃いのものをつけていたら、離れていても寂しくないかなって」
お揃いのものをつけていれば、少しだけいつもより近くに感じられるような気がした。
少し子どもじみていたかな、と恥ずかしくなって笑うと気付けば引き寄せられていた。
「・・・っ、孫権様」
「関羽、あなたは可愛い人だ」
「-っ」
驚いて、顔をあげると孫権様の唇が重なった。
いつもより熱が孕んだ瞳で私を見つめるから、恥ずかしくてきつく目を閉じる。
唇から伝わる熱が私を溶かしてしまうんじゃないかと想うくらい熱い。
「これからはあなたが傍にいない時、これを見てあなたを想うことにしよう」
右手と右手が、絡み合う。
かちん、とぶつかったガラス玉の音より目の前にいる彼の息遣いのほうが強く耳に残った。