王子様(麻生×かずは)

私に彼氏が出来た、と聞いてお父さんはちょっとだけ動揺した。
お母さんはどんな人なのか興味津々というように目を輝かせて聞いてきた。
お兄ちゃんと同じ学科の人だよ、というと今度連れてきなさいと嬉々として言われた。

そんなこんなで透さんが私の家に遊びに来るようになって指を折り返すところまで来た。

「はあ」

「お疲れ様です、透さん」

今日はお母さんしかいなかったんだけど、それでも色々と精神的に疲れてしまうようで私の部屋に入ると深いため息をついた。
お母さんが持っていきなさいと言ってくれたティーセットをテーブルの上に置くと、カップに紅茶を注ぐ。
ちょうど良い色合いで、ダージリンの香りが部屋に漂うとほっとする。

「ああ、ありがとう」

紅茶を一口飲むと、透さんもほっとしたように息を吐いた。

「あ、透さん」

まだ紅茶が熱かったからだろう、湯気で透さんのめがねが曇る。
それに気付いた彼はめがねを外すと、ポケットからハンカチを取り出した。

「・・・」

「・・・どうかしたのか、かずは」

「久しぶりに透さんがめがね外しているの見ました」

「ああ・・・アルケイディアではしていなかったから」

「なんだかアストラムさんを思い出しちゃいますね」

「だからその名前で呼ばないでくれ」

「あ、ごめんなさい」

ふふ、と笑うと透さんは恥ずかしそうに視線をそらした。

「めがねをかけているのも素敵ですけど、していない時も素敵ですね」

「・・・っ、ありえないだろ、そんな」

「え?」

「こんなに可愛くて優しい彼女がいて、その彼女が僕を褒めるなんて。
万年2位とか透明くんとか言われてる僕を素敵だなんてないないない。いくらかずはが優しいからって」

「透さん」

透さんはたまに自分の世界に飛んでいってしまう癖がある。
自分を貶めるようなことをいわれると、好きな人の悪口を聞かされているのと変わらないので苦しい。
透さんの手に自分の手を重ねて、彼の瞳をじっとみつめた。

「私にとって透さんはとっても優しくてかっこいい、大好きな彼氏です。
だからそんな彼氏の悪口は聞きたくないです」

「・・・っ、かずは」

「透さんだって私の悪口、聞きたくないですよね?」

「当然だ!そもそも君の悪口を言う奴がいるなら、そいつが間違っているんだ。
そいつの心がすさんでいるからそんな言葉が出てくるんだ・・・!」

「ほらね?だから、私の好きな人を悪くいうのは許しません」

「・・・悪かった」

「・・・はい」

私の手の下にあった透さんの手がきゅっと私を握った。
そして、私の手の甲にそっと口付けを落とす。
それはまるでアルケイディアにいた頃、アストラムさんが私にしてくれたような王子様みたいなキス。

「・・・これで許してくれないか、僕の・・・か、可愛いひと」

「はい、許しちゃいます」

きっと、私も透さんと同じくらい真っ赤になっているんだろう。
あの頃のように羽はないけど、私の王子様は優しく微笑んだ。

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