初めも肝心だというが、本当に肝心なのは初めてが終わり、二度目も滞りなく終わった三度目だ。
つまり、今日。
今日のデートが僕と彼女の未来を左右するデートになるということだ。
約束の時間30分前に着くと、深呼吸をした。
(大丈夫だ、問題ない。今日の日のために僕は何度も何度も頭のなかでシミュレーションをしてきたんだから)
準備は何事においても肝心だ。
僕はずれためがねの位置を直すと、広場にある大きな時計を見た。
あと、30分も経てば彼女に会える。
そう思うと自然と頬が緩んだ。
「透さん!」
「・・・っ!」
時間は30分前だ。
まさか会いたすぎて幻聴か?と自分の耳を疑ったが、僕の名をもう一度呼ぶ声がした。
「透さん、早いですね!びっくりしました」
「・・・き、君こそ早いな」
息を弾ませて僕のもとへ来た彼女はいつもより輝いて見えた。
編みこんであるみつあみが可愛い。
ふわふわとしたスカートも彼女に似合っている。
「今日もかわいい・・・」
「え?」
「んんっ!いや、なんでもない。ほら、早く行こう」
赤くなった顔を見られたくなくて、踵を返すように歩き始める。
彼女も僕のそんな様子に慣れたように僕の隣に並んで歩く。
・・・幸せだ。
控えめにいってもこれが幸せじゃなかったら世の中に幸せなんてものがないってくらい幸せだ。
隣を歩く彼女を盗み見ると目が合う。
「あ、見てるのばれちゃいましたね」
「・・・!き、君も見てるなんて思わなかったから」
「だって私だって好きな人の顔、みたいですもん」
「・・・なんだよ、それ」
照れながらも彼女は自分のキモチをこうやって口にする。
だから僕もつられて言わなくてもいい言葉を口にしてしまう。
「可愛すぎるだろ、そんな台詞・・・」
僕の初めての彼女は、この世界でもっとも美しいんじゃないかとおもう。
いや、僕にとっては女神だ。
僕の世界をこんなにも眩しいものに変えてしまったのだから。
「・・・とりあえず」
空いている左手を、ズボンにこすり付けて滲んだ汗を拭う。
それから彼女に手を差し出した。
「はぐれないように・・・手をつながないか」
アルケイディアでならもっとスマートに君への言葉が贈れただろう。
だけど、リアルの僕はこんないいわけじみた誘い方しか出来ない。
「はい、もちろんです!」
僕よりも二周りは小さな手が重なった。
「今日はどんな思い出が出来るか、楽しみです」
そう言って笑った彼女はびっくりするほど可愛かった。