学校の帰り道。
クレープ屋さんで買ったお気に入りのイチゴと生クリームたっぷりのクレープを頬張るアイちゃんは可愛い。
「アキちゃんはいらないの?」
「じゃあ、一口ちょーだい」
「うん、いいよ」
食べかけのクレープを俺に差し出す。
ぐっと堪えて俺は平気な顔をして、クレープを一口かじった。
「ん、うまい」
「美味しいよね」
ご機嫌なまま、アイちゃんはもう一口とかじった。
「アイちゃんアイちゃん」
もぐもぐと食べるアイちゃんはまるでハムスターみたいで可愛い。
そんなアイちゃんの頬をつんつんとつついて笑いかけた。
「間接キスだね」
「-っ!!」
キスは数える程度しかしていない。
ぶっちゃけて言えば、片手で足りちゃうくらいしかしてない。
間接キスを意識しないで俺にクレープを差し出したアイちゃん。
俺はすぐ間接キスだ、照れる・・・って思ったのに全然意識していないのが悔しかったからわざと言ってやった。
「ア、アキちゃん・・・」
「ふふ、顔真っ赤になってるよ、アイちゃん」
「意地悪いわないでよ、もう・・・」
先に俺に意地悪したのはアイちゃんなんだけどね。
俺は返事をせずにそのまま赤くなったアイちゃんがクレープを食べるのを見つめていた。
恋人。
好きなヒト同士が付き合うことを言うだろう?
俺はアイちゃんが好きだし、アイちゃんも俺が好きだ。
だけど、アイちゃんは俺のことをあんまり男として意識していない気がする。
意識しないでさっきみたいなことが出来ちゃうし・・・
タクヤくん、カズヤくん・・・だもんな。
それで俺は
「アキちゃん、どうしたの?」
「え、なにが?」「なんだか今日ぼーっとしてる」
いつの間にかクレープを食べ終わったアイちゃんは俺をじっと見つめていた。
あんまり見つめられると照れる。
熱烈的な視線から逃げるように俺はアイちゃんの手をとって立ち上がった。
「ほら、あんまりのんびりしてると陽沈んじゃうよ」
「のんびりしてたのはアキちゃんなのに・・・っ」
アキちゃん。
アキちゃん、かぁ・・・
小さい頃からの癖なのは分かっている。
年下だし、昔は女の子みたいだったから。
でも、もう少し男扱いされたい。
もうすぐアイちゃんの家につく時。
手を繋いだまま、本心を悟られないようになんてことない話を続けていると、ふとアイちゃんが黙った。
「・・・どうかした?」
「えーとね、・・・うん」「はっきり言わないとキスするよ」
「-っ!そうやってすぐからかうんだもん」
本心を冗談に混ぜていってしまうから俺の本心が伝わらないのは分かってる。
冗談じゃなくてアイちゃんにめちゃくちゃキスしたいし、もっと触りたい。
なんて思春期まっただなかの男の恋心を言えるわけはない。
「ほら、なに?いってみて」
「・・・笑わない?」
「うーん、多分」
「・・・アキちゃんの手、すごく男の人の手だなって思ったの」
多分俺が驚いたのが顔に出たのだろう。
恥ずかしそうにアイちゃんの手が俺の手から逃げようと動いた。
そんな可愛い事を言われて、逃がすわけがない。
きゅっとさっきより強く手を握った。
「・・・アキちゃん」
「ん、なに?」
「アキちゃんの顔・・・真っ赤」
うん、知ってます。
だってすっげー照れてるよ、俺。
男扱いされたいとか思っていたのに、いざそんな事言われるとすっごい嬉しくて舞い上がる。
空いてる手で口元を覆ってるけど、ごまかしきれない。
「アイちゃん、キスしていい?」
「え・・・っ、こんなところじゃ駄目だよ」
「ちょっとだけ」
「ちょっとって、」
メーター振り切れてるんだもん、今。
我慢できなくてアイちゃんの腰を抱いて引き寄せる。
そのまま顔を近づけて唇を奪おうとすると・・・
「-っ」
アイちゃんの手で俺の口は塞がれた。
「・・・恥ずかしいから駄目だよ、こんなところで」
顔を真っ赤にして、上目遣いでそんなことをいう残酷な俺の可愛い恋人。
悔しいから俺の口を覆う手のひらをぺろりと舐めてやると、驚いたらしく手が外れた。
「じゃあ今度アイちゃんからキスしてね」
アイちゃんの身体を解放し、再び手を繋いで歩き始める。
困ったような声で抗議をしてくるアイちゃんを横目で見ると、どうしようもないくらい幸せを感じた。