夜明け(ヴィルラン)

声が聞こえる。
俺を呼ぶ声・・・
うるせーんだよ、わーわー騒いで。俺は、

 

 

 

 

 


目を覚ますと、視界はまだ暗い。
日が昇る前に目を覚ますなんて久しぶりな気がする。
目が馴染むまでぼんやりと天井を見つめていると、昔のことを思い出した。
それはまるで遠い昔のように感じるけれど、俺があの場所にいたのはついこないだのことだ。
若返っていく身体、薄くなっていくチカラ。
魔剣になる前の記憶なんていつの間にか手放していて、どうして俺は存在しているのか分からなかった。
ただ近づいてくる死の音が、たまらなく怖かった。

「ん・・・」

声がした。
あの日のように。
ようやく目が暗闇に馴染んできて、ランの寝顔が見えた。
すやすやと穏やかに眠るその表情になぜだか安心した。
頬をなでると、自分のとは違う体温。
あの頃、消えるのが怖くて震える身体を自ら抱き締めていた。
震えは止まらず、身体は冷え切っていった。「おまえはあったかいな」誰かに触れるということは温かいということ。
それがぬくもりだということを知った。
魔剣の中から見る世界は、とても苦しかった。
恐怖、怒り、恐れ、狂う。
そんなものに溢れた世界だった。
苦しい。はやくチカラを振るいたい。戦いたい。
戦わなければ、俺は俺でいられない。
存在する理由なんてなくなってしまう。
でも、戦うと俺の命は削られていく。
消えたくない。
でも・・・

「・・・ヴィルヘルム?」

閉じていた瞳が開く。
眠気眼で、目が慣れてないからだろう。
うつろな瞳は俺を映さない。

「わりぃ、起こしちまったか」
「ん・・・そんなことない」

頬に触れていた手に、ランの手が重なった。
たったそれだけなのに、なぜだか泣きたくなった。

「なあ」

名前を呼ばれた。
何度も何度も。
うるせーって思った。
俺様の眠りの邪魔してくれんなって思った。
無理やり叩き起こされたからどんな凄い奴かと思いきや、女で、よわっちそうで。
戦いたくないって言う。
だけど、ランから見える世界は綺麗だった。

「俺さ、おまえに出会えて良かった」

魔剣になる前の記憶を取り戻した。
何もかも信じられなかった俺が招いた悲劇があった。
自分の力だけを信じて、驕って、そうして魔剣の中で眠った。
ひとを信じるなんて出来なかった。
ひとを疑うなんて知らないようなお前だったから、俺はおまえを・・・

「わたしのほうが、きっとそう思ってるよ」
「・・・なにいってんだよ」

ようやくランの瞳に俺が映った。
腰に腕を回し、そのまま抱き締めた。

「おまえってあったかいな」
「ヴィルヘルムだってあったかいよ」

誰にも抱き締められなかった身体に、ランの腕が回る。
誰も抱き締めたことのなかった俺の腕の中に、ランがいる。
身体はもう震えない。

真っ暗だった部屋に朝日が差し込んだ。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (7)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA