「具合、どう?」
インピーの額に乗せたタオルを外し、額に触れる。
タオルをのせていたおかげもあるだろうが、少し熱は下がったようだった。
「カルディアちゃん・・・ごめんね」
それでもまだ苦しいようで、熱で潤んだ瞳で私を見上げるインピーは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
首を小さく横に振り、私はタオルを氷水に浸して絞りなおすと額に乗せる。
「最近ずっと頑張っていたもの」
仕事をしつつ、実験も繰り返していた。
睡眠時間だって随分削っていた。いつもは二人でベッドに潜り込み、朝を迎えるのに私は一人だった。
だからインピーが眠っているのを見るのは凄く久しぶりだ。
「・・・カルディアちゃんが天使にみえるよ」
「・・・もう」
熱を出していようが身体がだるかろうが、彼はいつもの彼だ。
私の気持ちを軽くしようとして、冗談を言う。インピーの手を両手で包み込むようにする。
あ、やっぱり手もいつもより熱い。
「インピー、お願いがあるの」
「なに?」
「明日、熱が下がってたら一緒にお昼ごはん食べたい」
「お昼ごはん?」
「うん。最近一緒に食べてなかったでしょ?
だから明日は一緒に食べたいの、だめ?」
ねだるようにインピーの手を握ると、インピーはふわりと優しい笑みを浮かべた。
「だめなわけないよ。
大好きなカルディアちゃんのお願いなんだから」
いつもより弱い力で私の手を握り返す。
「それにそのお願いは俺のお願いでもあるよ。
カルディアちゃんと一緒にごはん、食べたいな」
「それじゃあ約束、ね」
「うん」
包み込んでいた手を外し、彼の小指に自分の小指を絡める。
「約束破ったときに飲む用の針、用意しておくね」
「え、針って誰から教わったの?」
「前、サンに借りた本に書いてあったの」
「くっ・・・サンちゃんめ」
「約束・・・破るの?」
「・・・破らないよ、絶対守るよ」
小さく笑うと絡めた小指を解き、寝具を整える。
それからインピーの頬を、いつも彼がそうしてくれるように優しくなでる。
「明日楽しみにしてるね」
そして、頬に口付けを落とした。
なんだか触れた部分がいつもより熱いのは、インピーの熱のせいということにしておこう。
自分からこうして口付けることはあまりなくて、恥ずかしくて熱いわけではない・・・はず。
「・・・っ、カルディアちゃんにそこまでしてもらったらすぐ治っちゃうね」
嬉しそうに笑うと、インピーはようやく目を閉じた。
それからすぐ寝息が聞こえ始めて私はくすりと笑みを漏らす。
インピーのそういうところが、好き。
きっと明日は一緒にご飯も食べれるだろうし、夜は一緒に眠れるだろう。
私との約束を、破らない彼だもの。
「おやすみなさい、インピー」
インピーの熱が下がって、目を覚ますまで。
明日の昼食は何にしようか、なんて幸せな時間の事を思い浮かべながら
もう少しだけ大好きな彼の寝顔を見ていよう。