「カルディアちゃん」
眠りにつく少し前のこと。
私の髪を指で弄びながら歌うように私の名前を呼ぶ。
インピーに触れられるのは心地よくて、つい目を閉じて、それを受け入れてしまう。
「カルディアちゃん」
「・・・なに?」
「カルディアちゃんのこと、呼ぶの好きなんだ」
「・・・私も好き」
インピーに呼ばれることが。
いつも優しい声で私を呼ぶインピーの声が好き。
例えば私が道に迷ったとしても、インピーが私を呼んでくれるのなら戻れる気がする。
・・・いや、きっと私が戻る前にインピーなら私を見つけ出してくれそう。
「インピー?」
急に黙り込んだ彼を不思議に思い、私は重たい目蓋をあける。
いつもなら寝ている時間なのだけど、インピーとまどろむ時間が愛おしくて眠るのがもったいない。
「どうしたの?」
枕元のライトが、ぼんやりとインピーの表情を映し出す。
頬を赤らめて、私から視線を逸らしている。
「カルディアちゃんが可愛くて色々と堪えてるところ・・・」
私の髪に触れるインピーの手をとり、きゅっと握る。
それだけでインピーは驚いたように私を見つめてくる。
インピーに見つめられすぎて、いつか穴が開いてしまうんじゃないかって時々思う。
擦り寄るようにインピーに身体を寄せてから、少し身体を起こして少し頑張ってインピーの頬に口付けた。
「私もインピーが可愛くて困る・・・かな」
喜んでくれるかな、と思ったのにインピーは固まったまま動かない。
少し恥ずかしいことをした、と羞恥心が沸き起こってきて、私はシーツを無理やり被った。
強く引っ張ったせいでシーツの上にいたシシィが体勢を整えようと動く気配がする。
「か、カルディアちゃんっ!カルディアちゃん!」
我に返ったのか、インピーが上擦った声で何度も何度も私を呼ぶ。
それが余計恥ずかしくて、私は身体を丸める。すると、さっきのシシィが動く気配とは比べられない大きさ・・・つまりインピーのことだけど、インピーがシーツの上から私を抱き締める。
「どうしよう、カルディアちゃんが可愛すぎて眠気どこかいったよ!カルディアちゃん」
「・・・っ、インピー、うるさい。シシィに怒られるよ」
「それでもいい!カルディアちゃん、お願いだから顔みせて」
「・・・いや」
だって顔が真っ赤になっていることくらい分かっているから。
無理やりにシーツをはがしちゃえばいいのに、インピーは優しいからそういうことを絶対しない。
だから私の名前を何度も呼ぶ。
「カルディアちゃん・・・」
「・・・」
「ねぇ、カルディア・・・」
「-っ」
シーツ越しに耳もとで囁くように名前を呼ばれる。
いつもそんな風に呼ばないのに、ずるい。
おそるおそるシーツを外して、振り返ると大好きなおやつをもらったシシィのような顔をしているインピーと目が合う。
「やっと見れた」
「インピー・・・」
額にそっと口付けられる。
インピーは私を甘やかすようにいつも額にキスをくれる。
「提案があるんだけど、カルディアちゃん」
「・・・なに?」
「今日は夜更かし・・・しませんか?」
私の手に自分の手を重ねる。
その提案に頷くように、私は彼の手を握り返した。