よく晴れた空の下、手を繋いで歩く。
夏になれば触れ合うことが煩わしくなるのかな、と思っていたんだけどそんな事なくて。
「今日も天気良いね」
「ああ、そうだなぁ」
ヴィルヘルムの顔を見上げると大人びた表情をしていて、思わずドキリとしてしまった。
大人だということは分かっているけれど、やっぱり子供の姿の印象が強かったからかな?
今の姿のヴィルヘルムにドキドキしてしまう。
「そういえばいつ髪短くしたの?」
「ん?」
「だって子供のとき、伸ばしてたじゃない」
「あー、いつだったかなぁ。
戦場で斬りおとされたんじゃなかったかな」
何でもない事のようにヴィルヘルムは言う。
そうだ。この人は戦場でずっとずっと生きてきたんだ。
そう思うと苦しくなる。
「ラン、お前が気にすることじゃない」
「・・・うん」
私の表情が一瞬こわばったのが分かったのだろう。
ヴィルヘルムは繋いでいない方の手で私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
髪が乱れるからやめてほしいって気持ちと、ヴィルヘルムに頭を撫でられるのが好きな気持ちがいつもせめぎ合う。
彼の手が頭から離れると少し名残惜しい気持ちになりながら、髪を直した。
「あそこに座るか」
「うん、そうだね」
空いているベンチを見つけるとそこに座る。
「飲み物買ってくる」
「私が・・・」
腰を浮かしかけるとそれを制するように肩を軽く押される。
「いいからお前は座ってろ」
「うん、ありがとう」
遠ざかっていくヴィルヘルムの背中を見つめる。
優しくなったと思う。
女の子の扱いをよく分かっていなかった最初の頃は森ばかり連れて行かれていた。
だけど最近はこうして街へ出て買い物をしたり、海沿いを歩いたり進んでしてくれるようになった。
それが全部私のためだと思うと嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。
そんな私に影が落ちる。
ヴィルヘルムなわけがないと思いつつもぱっと顔を上げて見れば全く知らない人。
「・・・えと」
「彼女一人?可愛いね」
「いえ、一人じゃないです」
見かけたことのない男の人がにやにやと私を見下ろす。
「今ひとりなんだからいいじゃん。一緒に遊びに行かない?」
「なっ」
そう言ってヴィルヘルムが座るはずの場所に腰掛ける。
それがあまりにも気に食わなくて思わず声を荒げそうになる。
「お前、誰にちょっかい出してんだ?」
いつもより数段低い声。
気付けば私とその男の人の前にヴィルヘルムが立っていた。
手に持っていた飲み物が入った紙コップはぐしゃりと潰れていた。
それから首根っこを掴むようにして男の人をベンチから引き摺り下ろした。
「いいか、こいつは俺の女だ。
ちょっかい出してんじゃねえ」
「ひぃっ・・・!!」
すごむヴィルヘルムに怖気づいたのか、真っ青な顔で慌てて逃げていってしまった。
ぽかん、とその様子を見ていた私にヴィルヘルムが向き直る。
「悪い、気付くの遅くなった」
「ううん、ありがとう」
「おう」
ヴィルヘルムの言葉を思い出し、頬が赤らむ。
『俺の女』だなんて初めて言われた。
誰かに対して言葉にしてくれて、私を守ってくれて。
もっと好きになってしまうに決まってるじゃない。
「それでよ・・・」
「うん」
罰が悪そうにヴィルヘルムが頬をかく。
「飲み物、駄目にしたから買いなおしに行かないか?」
潰れた紙コップを改めて見つめて、私は笑ってしまった。
「うん、行こう」
私は立ち上がって、ヴィルヘルムの隣に立つ。
空いている手に自分の手を重ねて、歩き始めた。
「ねえ、ヴィルヘルム」
「ん?」
「ヴィルヘルムってかっこいいね」
「はあ?」
私の言葉に目を丸くする。
だけどそんなの気にならないくらい私はご機嫌だ。
今日も私は彼に恋してます。