「・・・おい、沙弥」
昼休み、屋上でお弁当を食べていると鬼崎くんが重々しげに口を開いた。
「お弁当、美味しくなかった?」
今日は新しいおかずにチャレンジしたんだけど、それが口に合わなかったのかな。
不安げに彼を見つめると頬を赤らめて睨まれる。
「おまえが作るものがまずいわけねえだろ!いっつもめちゃくちゃ美味いんだよ!」
「ありがとう、鬼崎くん」
良かった、美味しいと思ってくれていて。
私はほっとして箸をすすめる。
「じゃなくて、だ!あの・・・今度の休み、これ行かないか」
制服のポケットから出てきたのは四つに折られたチラシ。
受け取って開くと、そこには大きくライラック展、と書いてあった。
「うん、行きたい!」
花を見ると気持ちが和むので、花は大好き。
だけど、それよりも鬼崎くんが私のことを思って誘ってくれたのが凄く嬉しい。
「そうか・・・じゃあ、行くぞ」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
「・・・そんな可愛い顔で笑ってんじゃねえよ」
「え?」
肩を抱き寄せられ、そのまま頬に口付けられる。
「離してやんねえぞ」
「・・・えと、わたしは傍にいるよ?」
「・・・はぁ、いいわ。やっぱり」
以前にもこんなやりとりをしたような気がするけれど、鬼崎くんは呆れたように私から身体を離すと昼食を再開した。
待ちに待った休みの日、私たちはライラック展に来ていた。
会場につくと、私たちみたいなカップルも大勢いて、花を楽しんでいた。
「凄いね!」
「おい、はしゃいで転ぶなよ」
「うんっ」
繋いだ手をぎゅっと強く握ってくれる。
ライラックというと紫色のイメージしかなかったけれど、白色のライラックがあるなんて知らなかった。
「綺麗だね、鬼崎くん」
「ああ、そうだな」
花を見つめる鬼崎くんはいつもより穏やかな顔をしていた。
ああ、良かった。
楽しんでいるのは私だけじゃなくて。
「ん?どうした?」
思わず鬼崎くんを見つめ続けているとその視線に気付いて鬼崎くんが私を見る。
「鬼崎くんも楽しんでくれてて良かった。
私がこういうの好きだから誘ってくれたし、付き合ってくれてるんだって思ってたけど
やっぱり二人とも楽しめる方が嬉しいから」
「・・・馬鹿だろ、おまえ。
おまえといれりゃ俺はどこだって・・・」
「え?」
声が小さくて聞こえなくて、私は問い返す。
すると頬を赤くして、鬼崎くんは口調を荒げた。
「おまえがいれば俺はなんだって楽しいに決まってるだろ!」
周囲の人がちらりと私たちを見ていた。
恥ずかしい・・・けど、嬉しい。
「ありがとう、鬼崎くん・・・
私も鬼崎くんといれるんなら何でも楽しい」
「・・・おう」
繋いでいる手に、私も力を込めた。
鬼崎くんのそういう優しいところが、大好き。
穏やかに続く日々、これからもこうやって思い出を作っていけたら楽しいな。
白いライラックのそばにあるプレートに書かれた花言葉をみて、私は微笑んでいた。