記憶にある撫子はいつだって凛としていた。
ただ、その強いまなざしと比例するように、あいつは人付き合いが苦手だった。
歯に衣着せぬ物言いで男女ともに溝を作ってしまう。
ちょっときつい物言いにクラスの女どもは距離をとり、男は遠巻きに撫子を見て楽しむ。
そんな日々だったけれど、俺があいつの隣にいて、あいつが俺の隣にいることが当然だということが俺にとっては当たり前の幸福だった。
「理一郎・・・」
部活が終わって教室に戻ると、撫子が呆然と黒板を見つめていた。
そこには何か書かれていたらしい痕跡は残っていた。
もうそこから読み解くことは難しかったけど撫子の反応からしてあまり良い事が書いてなかったことだけは分かる。
「撫子、帰ろう」
「・・・うん」
こくりと頷いた撫子と帰路につく。
二人でいるのが当たり前。
当たり前を壊れることが怖い。
いつかは離れる。
だって俺たちはただの幼馴染だから。
いつか撫子が誰かに恋をすれば俺の居場所はなくなる。
それを思うと胸が苦しくなる。
ずっとこのままでいたいと誰よりも願っているくせに、ずっとこのままでいられるわけがないことも十分分かっていた。
「・・・理一郎」
「ん?」
服の裾をきゅっと握られる。
撫子の表情は髪に隠れてよく見えない。
「ありがとう、傍にいてくれて」
「・・・・」
その言葉に一体何が含められているのかは分からない。
だけど・・・
「俺はお前の幼馴染なんだから一緒にいるよ」
離れるときがくるまで・・・
俺は誰よりもお前を思って、理解して。
いつだってお前を守ってみせるから・・・
「うん、ありがとう」
ようやく笑った撫子は、いつもより綺麗に見えた。