夜、目が覚めた。
ユリアナはすやすやと眠っているようなので、起こさないように音を立てないようにして動く。
窓の外を見ると、満月が輝いていた。
(・・・綺麗)
月があまりにも綺麗だったから・・・
気持ちが緩んだ。ぽろぽろと流れる涙を止めることが出来ない。
(おい、何泣いてんだよ)
自分の中で響く声。
(・・・ヴィルヘルム!?)
普段どんなに呼びかけても答えてくれないのに、どうしたというのだろう。
(だからなんで泣いてんだよ!辛気くせーな!)
魔剣とは恐れられるもの
そのチカラに私自身恐怖を感じることもある。
言うことを聞かずに暴れそうになる彼を抑えるなんて私にはうまく出来なくて。
人を殺めてしまう恐怖が忍び寄る。
私は戦うためにここにいる。
だけど、人が死ぬという事が怖くて仕方がない。
死ぬということは、もう誰にも会えなくなるということ。
私がどんなにお父さんに会いたいと願っても会えないのと同じように。
私のような思いをする人が世界のどこかに出来るということ。
ヴィルヘルムは私たちの命を助けてくれた。
そのことはとても感謝しているし、彼とわかりあえたら良いなとも思ってる
(月がすごく綺麗だったから気持ちが緩んじゃった)
(はぁ?なんだ、それ)
(うーん・・・ヴィルヘルムにもいつか分かるかもよ?)
(俺はそんなのどうでもいいんだよ、ばーか)
数回見た彼は幼い少年だった。
その姿を思い浮かべながら彼の言葉を聞く。
ちょっと可愛いかもしれない
(私のこと心配して声かけてくれたの?)
(・・・お前が泣いてると居心地悪いんだよ)
(ふふ、ありがとう)
顔を見て話が出来たら良いのにな。
そうしたらもっと楽しいのに。
◆
ふと、窓の外の月を眺める。
今日は三日月だから少し見づらいけれど、それも綺麗だ。
「どこ見てんだ?」
「きゃっ」
てっきり眠ってしまったのだろうと思っていたら、覆いかぶさるように私の上にのしかかってきた。
触れる肌がさっきまでの情事の名残か、熱い。
まるで大きな犬がじゃれついてきているようにくすぐったくて思わず身じろきしてしまう
「月を見てたの、綺麗だなぁって」
「お前、昔もそんな事言ってたよな」
昔、と言われて記憶を辿ると、まだ彼が私の中にいた頃だった。
それをヴィルヘルムが覚えていたことに驚いてしまう
「なぁ」
彼の大きな手が私の頬を優しく撫でる。
「もう泣かないか?」
「ヴィルヘルムが何か酷いことしたら泣くかも」
「俺はそんな事しねーよ」
「ふふ、そうだね」
彼の手に自分の手を重ねる。
顔を見て話したいって思ってた。
朝起きたら私が知ってる幼い彼じゃなくて、青年の姿をしたヴィルヘルムがいた。
姿は大人だったけれど、私の中にいた少年と変わらなくて、全然いう事聞いてくれないし、戦いたがるし、人と仲良くしようとしないし。
それが今は私が泣かないか心配してくれるようになるんだから。
永い年月で失われていった彼の心が少しずつ戻ってきているのかどうかは分からないけれど。
「ヴィルヘルムは何があったら泣いちゃう?」
「ああ?俺は・・・」
「俺は?」
「お前に嫌いって言われたら・・・」
「え?」
「なんでもねぇよ!」
顔を真っ赤にさせると私に背中を向けた。
そんな彼が可愛くて、私はその背中に抱きつく。
「ねぇ、ヴィルヘルム」
「・・・」
「ヴィルヘルム、大好きよ」
あなたがいたから今の私はこうしてここにいる。
あなたがいたから私はもう悲しくて泣くことはないと思う。
たまに喧嘩をして泣くことはあるかもしれないけれど、悲しくて泣くことはないよ
「・・・知ってるよ、ばか」
「うん」
彼の背中に耳をつけると鼓動が聞こえる。
穏やかな気持ちで私は目を閉じる。
今日はよく眠れそうだね。