夜明け前(ヴィルラン)

デートした日の夜はいつも思っていたの。
そのままずっと一緒にいたい。朝、起きた時に隣にいてくれたらどんなに幸せかって。
付き合うようになってから、二人だけの特別な時間が増えて、二人だけの想い出が積み重なっていった。
ヴィルヘルムは過去の事をおぼろげに覚えているようだけど、あまり昔の事は尋ねないようにしていた。
だって、騎士だったこともあると話していた時、うまく踊れない私を華麗にエスコートしてくれた彼はとても素敵だった。
そんな彼の初めての相手が、自分だなんて思えなかったから。
私にとっては、恋も付き合うのもヴィルヘルムが初めてだから何もかもが初めてだった。
けど、私の不安はそれからしばらくして解消された。

ニルヴァーナが連休になった日のこと。
生徒の多くが外泊をする中、私たちも初めてそうした。
初めて、何よりも近くに感じた体温に私は泣いてしまった。
そんな私を見て、慌てたヴィルヘルムは自分も初めてだと言い、それからしきりに私を心配しながらも、優しくしてくれてまた泣いてしまった。

「・・・ん、」

そんな昨晩の出来事を物語るように、私の隣には今、ヴィルヘルムが眠っていた。
すやすやと眠る彼の寝顔はなんだか幼くて、自然と笑みがこぼれてしまった。
初めて出会った頃は魔剣ということもあり、うまくコミュニケーションが取れずに大変だった。でも、言葉はきつくても、彼の優しさはあの頃から私に向けられていたようだ。
ユリアナがしみじみと語るから、きっとそうなんだと思う。・・・多分。
初めての恋で、想いが通じ合うなんて奇跡、世の中にどれくらい溢れているのだろうか。
私には無縁だと思っていた恋。
村にいた頃も、ニルヴァーナに来た時も、ずっとそう思っていた。
私に恋を教えてくれたのはこの人。
誰かをいとおしいと教えてくれた。
愛する事の幸せも、愛される事の幸せもくれたのはヴィルヘルムだ。

「ありがとう、ヴィルヘルム」

眠る彼の頭を優しく撫でる。
それに気付いてか、うっすらと瞳を開けた。

「・・・ラン?」

「うん」

「なんだよ、先に起きてんなら言えよ・・・」

眠そうな声で彼は私を非難するが、なんだか可愛くて私は頭を撫で続けた。

「ヴィルヘルムが気持ちよさそうに眠ってるから」

「・・・うるせーよ、ばーか」

頭を撫でていた私の手を掴んで、引っ張ると私を胸の中に収める。
その体温に昨夜を思い出し、頬が熱くなる。

「寝ぼけてるの?」

「まだ夜明けてねーじゃん、一緒に寝るぞ」

カーテンの隙間から見える外は確かにまだ暗い。
ヴィルヘルムの顔を見ると、再び目を閉じて、静かな寝息が聞こえ始めた。

「おやすみ、ヴィルヘルム」

目が覚めた時、隣にいる貴方にその時もう一度伝えるね。
私を好きになってくれてありがとう
大好きよって。

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