気にしない、気にしない。
俺は何にも意識してない・・・!
「何そわそわしてんだよ、パシュ」
ラスティンが呆れたように俺を見ていた。
「別にそわそわなんかしてねーよ!」
「今日がバレンタインだからってそわそわしてるのかと思ったけど、違った?」
「う・・・うるせーよ!」
「そもそも、お前と彼女、付き合ってるんだろう?
それならくれるに決まってるだろ」
彼女というのはランのこと。
確かに付き合っている、俺の恋人。
恋人だからって必ずくれるわけじゃないだろう
別に甘いものが特別好きというわけじゃないし、サモサの方が好きだから欲しいってわけじゃないけれど・・・!
「あれ?パシュ、こんなところにいたの?
さっきからランが探してたよ」
通りすがりのユリアナが俺にそう声をかける。
「え、マジで!?」
「うん、多分鍛錬所の方に行ったよ」
「サンキュ!じゃあな、ラスティン、ユリアナ!」
聞くや否や俺は鍛錬所に向かって走り出した。
「若いなー、パシュ・・・」
ラスティンがそんな事を呟いたのは俺の後ろ姿を見送った後だった。
走っていると廊下にいるランを見つけた。
「ランっ!」
「パシュ?どうしたの?そんなに走って」
駆け寄ると驚いたように目を見開いた。
彼女の手には包み紙があったのがうっかり視界に入った。
「ユリアナからランが俺を探してたって聞いたから」
「そうなの、探してたんだよ。
ちょっと向こうに行かない?」
廊下のど真ん中で立ち話をするのは確かに邪魔になる。
俺は頷いて、空いている教室に二人で入った。
手近な椅子に二人で隣同士で座った。
「えっとね、今日バレンタインだから。
パシュにって作ったの」
頬を赤らめて、恥ずかしそうにさっきの包みを俺に差し出す。
「いいの?」
「うん。だって、パシュは私の本命だもの」
脳内で色々とシミュレーションをしていたのに、ランがあまりにも可愛くて色々とぶっ飛んだ。
受け取る前にランをぎゅっと抱きしめる。
「パシュ・・・っ、」
驚いたらしく、俺を引き離そうと俺の胸を押し返す。
「ごめん、でも」
身体を少し離すと、顔がとても近くにあった。
そのままランの唇を奪うと、キスの合間にランの吐息が漏れた。
何度キスしてもランの唇の柔らかさとか、暖かさとか、キスの合間の漏らす声や仕草。
全てが愛おしくて、足りない。
唇を離して、もう一度しようとすると俺とランの間にさっきの包みが現れた。
「もう・・・パシュ、チョコ受け取ってくれないの?」
キスの余韻で潤んだ目で睨まれ、俺は身体を離した。
「ごめん、つい。
改めて・・・ありがとう、ラン」
包みを受け取ると、ランは満足げに笑った。
「食べてもいい?」
「初めて手作りしたから・・・美味しくなかったらごめんね?」
「ランがくれるものならなんだって美味いよ」
包みを開くと、丸い一口サイズくらいのチョコレートが入っていた。
「いただきます」
一個口に放り込むと、チョコレート独特の甘味が広がった。
物凄く甘ったるいわけでもなく、程よい甘さでこれなら食べやすい。
「美味い!ありがとう、ラン!」
「良かったぁ、喜んでもらえて」
安心した、と言わんばかりにランが微笑む。
「ランも食べる?」
「え、いいの?」
「うん」
ランの顔を引き寄せて、キスをした。
今日二度目のキスはチョコレートの味がした。
「どう?うまいだろ?」
「・・・よく分かんないよ」
顔を紅くしたランがそう言って、俺の服の裾を引っ張る。
「だから、もう一回して」
その一言で俺の僅かな理性はどこかへ飛んでいった。