ヤキモチ(大地翼)

ずっとひそかに気になっていることがあった。
それは付き合う前のこと。
五十嵐くんの恋人いない歴の話のとき、大地くんは自分は違うと言っていたこと。
つまり、私の他に付き合ったことがあるということだよね。
それに関して妬いたり、とかそういう事じゃなくて。

 

「ねぇ、大地くん」

「ん?なに?」

休日の昼下がり。
大地くんと買い物にして、カフェでお茶をする。
聞いてみようと想っていたことを口にした。

「大地くんが過去に付き合ってた人ってどういう人?」

「えっ?!」

「だって前に大地くん、五十嵐くんに話ししてたでしょ?
だからどんな人と付き合ってたのかなぁって」

「翼、それは妬いてるの?」

「ううん、そういうんじゃなくて興味本位というか」

「だよなぁー」

私の言葉を聞いて、大地君がうなだれる。

「翼って、ヤキモチとかそういうのしないよなぁ」

「うーん、そうだね。
そもそも大地くんが他の女の子と話してるのあんまり見かけないし」

「それはそうだけど・・・」

仕事で異性と話すからってそれを妬いたりはしないしなぁ・・・

「あれ?大地くんはヤキモチ妬くの?」

「それは当たり前だよ」

「そうなんだ」

そういわれて少しだけ嬉しくなる。
大地くんもそういうのあるんだ。
ふふ、と笑うと頬を軽くつつかれた。

「可愛い顔禁止!」

「えー、なにそれ」

その後もねばったけど、結局過去の恋人の話は教えてくれなかった。

 

 

「ていう事があってね」

同室の莉桜に大地くんの恋人の話をすると、莉桜は首をかしげた。

「確か、大地さんに元カノなんていないはずだけどなぁ」

「え?」

「だって私、CUEのメンバーの事色々調べたけど、そんな話聞いた事ないもの」

「じゃあなんで嘘ついたんだろう?」

「それは翼にヤキモチ妬いて欲しかったんじゃない?」

「・・・そうかな」

そういえば大地くん、ヤキモチがどうとか言ってたもんなぁ。
ふと、そんな事を思い出した。
大地くんに過去に彼女がいようがいまいが、どっちでもいいか

(大地くん、可愛いなぁ)

 

 

 

 

 

 

そんなある日のこと。
今日の業務も終わって、食堂に行くと、大地くんが既にいた。

「大地く・・・」

声をかけようとして気付いた。
大地くんの席の前に見たことがない女の子がいた。
内勤の子だろうか?分からないけど、目がくりっとしてかわいらしい子だ。
大地くんがどんな顔をして彼女と話しているのかは分からないけど、楽しそうだ。
一緒のテーブルに座るのは憚られ、私は離れた席で食事をして部屋に戻った。
それからそういう事が何度か続き、私は大地くんにあの女の子のことを聞けないでいた。
だって大地くんは優しいし、休みの日だって今までどおり一緒に過ごしている。
不安に想うことなんて何もない。

 

「葉山、なんか元気ないんじゃないか?」

「え、そんな事ないよ」

五十嵐くんが私の様子を心配してたずねてくれたけど、言えるわけがなかった。
大地くんを他の子にとられたらどうしよう。
そんな子供みたいな事、いえない。

 

 

業務も終わって、片付けを終わって、大地くんたちと部屋を出るとあの子が部屋の傍に立っていた。

「鷹宮さん、少し良いですか?」

「俺?うん、いいよ」

良かった。大地くんって呼ばれてなくて。

「ごめん、ちょっと行って来るね」

「うん、分かった」

そう言ったものの、何の用事があるというのだろう。
その場から動けない私の肩を五十嵐くんが叩いた。

「心配なら見て来いよ」

「でも・・・」

「いいから、行くぞ」

私の腕を掴んで問答無用で二人の後を追うことになる。
広場の影まで行くと、二人が向き合っていた。

 

「鷹宮さんに付き合ってる方がいるの知っていますけど、私と付き合ってもらえませんか?」

「-っ!!」

それは予想通りの展開だった。
彼女は目を潤ませて、大地くんを上目遣いに見ていた。

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、今付き合ってる子と別れるつもりなんてないんだ」

「・・・そんな、」

「大事にしたいんだ。
それに君は最初、五十嵐が好きだって相談してきたじゃない」

「それは・・・鷹宮さんと話すきっかけが欲しかっただけなんです。
鷹宮さん、彼女さんを大事にしてるって聞いてたから・・・
そうでもしないと私、話しも出来ないかなって」

「ごめんね。翼と別れるなんてありえないから」

「・・・っ!ひどい!」

彼女は大地くんの脇をすり抜けて、駆け出していった。
残された大地くんはため息を一つついてから、こちらへと歩いてきた。

「翼!五十嵐!」

私たちが隠れていることに気付いて、驚いたように声をあげた。

「じゃあ俺はお先に!」

五十嵐くんは私を置いて駆け出していった。
残された私と大地くんの間に微妙な空気が流れる。

「ごめんなさい、どうしても気になって」

「いや、いいよ」

「その・・・嫌だったの。
大地くんが他の誰かに取られるんじゃないかって」

子供じみた我侭を大地くんにぶつける。
ああ、呆れられるかも。
そう想いながらも、不安に想っていたことを吐露する。

「大地くんが、他の子と楽しそうに笑うのも苦しくて。
いつからこんなに心狭くなったんだろう・・・!」

「翼・・・、」

大地くんはそっと私を抱きしめてくれた。
その体温にすごく安心した。

「心配させてごめんな?
でも、翼が心配するようなことは何にもないから」

「・・・うん」

大地くんの背中に腕をまわして、抱きしめ返した。

「今回は心配かけちゃって申し訳なかったけど、翼が妬いてくれたから良かった」

「・・・もう」

嬉しそうに笑う大地君のほっぺたを軽くつねってやる。
その顔を見ていたら、さっきまでのモヤモヤがあっという間に消えていった。

「大地くん、大好き」

「俺も好きだよ、翼」

頬から手を離すと、大地くんから額にキスを落とされた。
ずっとずっと隣にいてね、大地くん。
そう願いながら今度は私からキスを贈った。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (1)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA