家族になろう(キョウルシ)

今までホリック叔父さんがいたから感じたことがなかったけれど、この家は私が住むには広い。
確かにホリック叔父さんはしょっちゅう家を空けていたけれど、それでも帰ってくるという前提があったから私は安心しきっていた。
そう、誰かの存在があるというのはとても大事なことだと教えられた。

 

 

 

「おい、ルシア」

ココノココノは相変わらず、常連さんが足を運んでくれて私のケーキと紅茶を食べてくれる。
その光景が私の宝物みたいに積もっていく。
キョウゴも最近は忙しいようで慌しく来てはすぐ帰ってしまう。
それが寂しいなんて、キョウゴにはいえなかった。
私の目の前で手を振って、私の意識を引き戻す。

「あ、ごめん。どうしたの?キョウゴ」

「・・・あのさ、今日店閉めたら出かけないか」

「え、いいの?」

「おう」

テレを隠すようにぶっきらぼうな返事にキョウゴらしいな、って笑みがこぼれる。

「じゃあ、後でな」

「うん」

私が煎れた紅茶の残りをぐいっと飲み干すと、キョウゴはお店を後にした。
お店が終わるまであと数時間。
キョウゴが迎えに来てくれるのを楽しみにがんばろう!
気合を入れなおし、私は仕事を再開した。

 

 

 

 

閉店時間を迎えて、店内の片付けと明日の仕込みを済ませた頃にちょうどキョウゴが現れた。

「お疲れ」

「うん、キョウゴもお疲れ様」

「それじゃあいくか」

「うん!」

店の戸締りをして、キョウゴと連れ立って歩く。
自然と手を伸ばして、キョウゴの手に触れる。
きゅっと握り返してくれる度に私は幸福を感じている。

「ふふ」

「なんだよ」

「ううん、なんでもない」

恥ずかしそうに私から視線をそらすキョウゴが可愛いなんていったら怒られるから内緒。
それからキョウゴが最近見つけたというお店に行き、一緒に夕食を食べた。
普段、家で自炊をしているため外食というだけで私の気持ちは踊る。
キョウゴが食べているものを一口もらったり、食べきれない私の料理をキョウゴが食べてくれたりと、とても楽しかった。

 

 

「美味しかったね、ご馳走様!」

「お前、飯はあんまり入らないくせに、デザートは別腹だもんな」

「だって甘いものは別でしょう?」

「はいはい」

ポンポン、と私の頭を叩くと今度はキョウゴから手を繋いでくれた。

「行きたいところがあるんだ」

「うん、いいよ」

辺りは暗くなってきていたが、キョウゴと一緒だから心配ない。
それに、キョウゴともっと一緒にいたいから。
他愛ない話をしながら、キョウゴの目的地まで歩く。

 

「ここ・・・」

世界樹の大砂時計のふもとがキョウゴの目的地だったみたい。
ここに来るのはいつ振りだろう。
多分、あの日以来かな。
繋いでいた手を離すと、キョウゴは私と向き直った。

「あのさ、ルシア」

「うん」

「俺はお前のこと、好きだ」

「・・・うん。私も、好き」

キョウゴがそうやって言葉にしてくれることは少ないので、嬉しくて私も想いを返す。
そうすると、キョウゴも真っ赤になった。

「いや、今は。うん・・・黙って聞いてくれ」

「・・・?うん、分かった」

咳払いをして、もう一度私と向き直り、真剣な瞳で私を見つめる。

「・・・一緒に暮らさないか」

「え・・・」

「俺と、家族にならないか」

いわれた言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
すうっと身体を駆け巡ったのは、嬉しさ。

「・・・っ、私でいいの?」

気付けば私の目から涙が一粒、また一粒と零れていた。

「お前がいいんだよ」

嬉しくて、気付けばキョウゴの胸の中に飛び込んでいた。
ぎゅっと彼を抱きしめると、それより強い力で抱きしめ返される。

「嬉しいっ!私も、キョウゴと家族になりたい・・・っ」

キョウゴは私の頭に自分の額をそっと近づけた。
こつん、と触れる感覚がして顔を上げるとそっと口付けられた。

「もう、キョウゴとさよならしなくていいんだね。
キョウゴは私のところに帰ってきてくれるんだね」

「ああ、そうだよ」

キョウゴと離れる瞬間が一番苦しかった。
笑顔で手を振っていたけど、本当はいつも寂しさがちりちりと胸の中にいたの。

「いってらっしゃいって言って、お帰りなさいって迎えられるのね」

なんて幸せなことなんだろう。
想像するだけで、また涙が溢れてしまう。

「想像するだけで、幸せなんだからきっと本当になったらもっと幸せだね」

「馬鹿。
もっと幸せにするよ、ルシア
いや・・・二人で幸せになろうな」

「うん・・・!」

微笑みあって、私たちは誓い合うようにもう一度キスをした。

 

 

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