私の恋人は可愛い。
(恋愛をするまで知らなかった。男の人を可愛いと思う事もあるだなんて)
鼻歌を歌いながらキッチンで料理をする壱哉さんの背中を見つめながら、私はそんな事を考えていた。
紬が聞いたら「萌えですわ!!!!」とか言いそうなので絶対口に出していう事はないだろうけど、壱哉さんの事を可愛いと思っているのは本当だ。
「壱哉さん、何を作ってるの?」
醤油を焦がしたような香ばしい匂いの正体が知りたくて、私は壱哉さんの背中にぴたりとくっついて手元を覗き込んだ。
「ヒ、ヒバリさん!」
恋人になってしばらく経った。
私からこうやってくっつく事も随分自然に出来るようになったと思う。
最初の頃は恥ずかしかったけど、私がくっつく事により壱哉さんが驚く程嬉しそうな顔をするのだ。
それが可愛くて、気づいたら恥ずかしいだのなんだの言ってられなくなった。
「これはいも餅だよ」
「いも餅!」
子供の頃、スミ子さんが時々作ってくれたおやつだ。
じゃがいもを潰して作ったいも餅に甘じょっぱいタレをからませて頂くのだ。
「スミ子さんに教えて頂いたんだ、ヒバリさんが好きだって」
「もう…」
気づけば壱哉さんはすっかりスミ子さんと仲良くなっているらしい。
それが羨ましいようなずるいようなちょっと複雑な気分だ。
「お行儀が悪いけど、さっそく一つ味見でもどうかな」
「! いただくわ!」
出来たばかりのいも餅を小皿に取り分けて、私に手渡す。
さっそくお箸で割って、ぱくりと頬張る。
お餅とも違うけど、もっちりとした食感と甘じょっぱいタレが美味しくて、私は頬っぺたを抑えたくなる衝動に陥る。あっという間に一つぺろりと食べてしまった。
「すっっごく美味しかったわ」
「良かった、ヒバリさんの笑顔が見れて」
壱哉さんは安心したように私の唇の端を指で拭うとそれをぺろりと舐めた。
そういうさらりとした動作に、ちょっとときめく自分もいたり…いたりする。
「壱哉さんって」
「ん?」
可愛いだけじゃなくて、かっこいい。
そんな分かりきっていた事を自覚させられるとどうにも負けた気分になるのはどうしてだろう。
「なんでもないわ」
「意地悪だな、ヒバリさんは」
小さく笑うと、壱哉さんは私をきゅっと抱きしめる。
トクントクンと伝わる鼓動がいつもより早い。
ああ、壱哉さんもドキドキしてるんだなと思うと、かっこいい壱哉さんの中にもいつだって可愛い壱哉さんが存在するんだなと思って、自然と笑みが零れた。
(大好きな、私の可愛い人)