「ね、七海。これ見て」
台所で夕食の支度をしていると、ロンが近づいてきた。
最近疲れ気味のロンを気遣い、薬草を煎じていれようとしていたところ、私の手から薬草をひょいと奪い、ロンは私の手を取った。
「なに?」
ソファのところまで移動し、私を膝の上に乗せるとポケットから何かを取り出した。
「?」
「見てて」
それは子どものおもちゃのようで、小人と大きなボウルの形をしたうすっぺらい金属に見えた。
大きなボウルの上に小人を近づけると、ぱちんっと金属がぶつかりあう音がした。
「ほら」
ボウルを逆さにしてみせても、小人は離れなかった。
「俺と七海みたいでしょ?」
その言葉に心臓がきゅっとなる。
思わず小人に手を伸ばし、少しだけ強く引っ張るとあっさりボウルから離れてしまった。
「あー、取れちゃった」
「私とロンみたいじゃない。
私とあなたは誰がひっぱっても離れないから」
私たちを分かつのは、きっとどちらかの死だけ。
それがいつか分からないけど、それ以外のものに引き離されるつもりなんてない。
たとえ記憶を失ったって、何度だって始めてみせるから。
「そうだった。じゃあ今度はもっとしっかりくっつくもの見つけてくるかな」
ロンは小さく笑うと、もう用はないといわんばかりにおもちゃを手離した。
そして、私のことをぎゅっと抱き締めた。
「ロン、ごはんの支度」
「それは後で俺がやるよ」
「…あなたのために滋養に良いもの作る」
「うん、ありがとう。でも、今は食事よりも七海が良いな」
首筋にロンの唇が押し当てられる。
ぞくりと肌が粟立つ。
ロンの熱を感じられるこの瞬間が、気付けば好きになっていた。
「…ロン」
ずっと一緒にいて。
どんなことがあっても、私を抱き締めて。
そう願いを込めて、私からそっと口付けをした。