運命の人(おおねこ:アナザーエンド後)

恋をする相手だけが運命の人じゃない。
そんな当たり前らしき事を知ったのは、あの男と関わってしまってからだ。

 

「大外さんの好みの女性のタイプってちょっと茶髪寄りでロングな清楚系ですよね」

「僕はそんな事、君に話した覚えはないんだけど…まあ、いい。
そうだよ。体も大人らしい体つきが好きだよ」

「そんなの知ってますよ」

暗に、というかほぼ直球に私のことは守備範囲外だと言っている。
そんな事は知っているし、私も同じだ。
誰が自分のことを刺して、生死の淵をさ迷わせたような男を好き好むというのだ。
しかし、改めて言われるのも腹が立つもので、このジンジャーエールは大外さんにおごらせようと決意しながら、ストローをくわえた。

「いや、あそこに座ってる女性、大外さんの好みのタイプっぽいな~って」

ちらりとそちらに視線をやれば、大外さんもさりげなく女性を確認して、コーヒーを一口飲んだ。

「うん、好みだね」

「でしょうね」

一瞬目が輝いたのを私は見逃さなかった。
きっとホテルにいた頃だってこの男は阿鳥先輩のことをそういう目で見ていたんだろう。すぐに気付けなかった自分が憎らしい。
テーブルの上に置いていたスマホが震えると、大外さんは素早くそれを確認した。

「彼女からですか?」

「まあね」

「彼女は対象にならないんですか?」

「そんな事したら足がつくから対象にするわけがないだろう」

「ああ、なるほど」

そういえばそうか。
交際相手を疑うのは至極全うな判断だ。
交際相手では足りない欲求を見ず知らずの女性にぶつけるというのも甚だ気持ち悪い。

「じゃあ次の相手は決まりですか?」

「うーん、そうかもね」

コーヒーをもう一口。
私は残っていたジンジャーエールは一気にすすった。

「仮にも女の子なら、音を立てて飲み物は飲まない方がいい」

「仮じゃなくても女の子ですけどね」

私が飲み終わったのを確認すると、大外さんは立ち上がった。

「いいんですか、もう出てしまって」

「ああ、彼女もそろそろ出るみたいだからね」

気付かれないようにさっきの女性に再度視線をやると、確かにそろそろ立ち上がるようだった。目ざとい男だ。

「大外さんは運命の人って誰だと思っていますか?」

「ん?」

運命の人って、互いにそう思うべきものなんだと思っていた。
でも、それは恋愛だったら――だ。
だって恋愛における運命の人というのは、おそらく御伽噺のお姫様たちがすべからく王子様と結ばれるのと同義だろうから。

「そうだね、少なくとも君じゃない」

「それはどうも」

私は涼しい顔をしている大外さんにニヤリと笑ってみせる。

「今日は大外さんのおごりにさせてあげますよ」

「何言ってるんだ、君は」

そう言いつつも伝票は彼の手の中。
よっ、さすが医大生と心の中で褒めてやる。

「どうせおごりならフルコースとかが良いんですけどね」

「君にフルコースなんて大層なものは似合わないよ」

人は思ったよりも簡単に道を踏み外す。
自分がそういう人間だったなんて知りたくなかったのに、無理矢理思い知らせたからには責任を取ってもらいたい。

「大外さんにはあそこに生えてるパンジーがお似合いですよ」

「君はその近くに生えてる雑草が似合っているよ」

「私にそんなに近くにいてほしいんですか?気味悪いですね」

「なっ、そういう発想をする君のほうが気味悪い」

私の運命の人は、一緒に地獄の果てまで行く相手だ。
どこへだって一緒にいってやる。

会計が終わった大外さんに一応お礼を言ってやる。
カランコロンと可愛らしい音を立てながらドアを開けた。

「さあ、大外さん行きましょうか」

地獄の果てまで、私がエスコートしてあげます。

にっこり微笑んでみせると大外さんも他の誰にも見せない悪い顔で笑って見せた。

 

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