覚めない夢なんて存在しない。
例えどんなに良いものだとしても、
どんなに悪いものだとしても、
夢は夢でしかない。
だけど、私は…
授業が終わり、トイレに駆け込んで鏡の前に立つ。
ブラシを取り出して、少し跳ねた髪を整えて、色のついたリップクリームを塗って、私は深呼吸した。
(よし…!大丈夫!……多分)
おかしなところはないか、鏡の中の自分とにらめっこし終えたら、私は早足で玄関へ向かった。
今日こそは、彼よりも早く待ち合わせ場所に着きたい。
そんな気持ちから、私はいつもより駆け足になる。
「アイちゃん!」
校門の近くに立っていたナッちゃんは私の姿を見つけて、片手をあげて微笑んだ。
「ナッちゃん!」
「そんなに急がないでよかったのに」
ナッちゃんのところへ駆けていくと、息を弾ませてる私を見て、ナッちゃんはくすりと笑った。
「ナッちゃんこそ……今日も早いね」
「ちょっとでも早くアイちゃんに会いたかったから」
さらりととんでもない事を言うナッちゃん。
私は、駆けてきたせいだけではない胸の鼓動をうるさく感じながらも、ナッちゃんに微笑んだ。
「私も、会いたかった」
同じ学校だったらよかったのに。
何度そう思ったか分からない。
どうしてナッちゃんと同じ高校に進学しなかったんだろうと後悔はあるけれど…
「大学こそはナッちゃんと同じところに行けたらいいなぁ」
「え?」
つい、零れた本音。
ナッちゃんは驚いたように私を見つめた。
「同じ大学だったら一緒に登下校もできるよね、きっと」
大学は自由だから、もしかしたら肩を並べて授業を受ける事もできるかもしれない。
一緒にお昼を食べる事もきっとできるだろう。
想像するだけで楽しくて、嬉しい気持ちになる。
「そうだね…」
ナッちゃんは目を細めて私を見つめている。
なんだか、それは眩しいものを見つめるように。
ナッちゃんは時折私のことをそうやって見つめる。
その度に私の胸はざわざわと落ち着かない気持ちになる。
それがどうしてなのかは分からない。
「そのためにはまず、大学を合格しないといけないね」
「ナッちゃんに追いつけるように頑張ります」
「僕も頑張るね、アイちゃん」
ナッちゃんはいつものように微笑んだ。
それを見て、私も安堵する。
いつの間にか繋いだ手。
その手を離すまいと、私は強く握り返した。