どんな私でも(隼ツグ)

時々考える事がある。
もしもあの時、あの事件が起きずに結婚していたら。
私はどんな私になっていたんだろう。

 

いつもと違う時間を過ごすと、体内時計が狂うのか、私はいつもより早い時間に目を覚ました。
ぼんやりとした意識のまま、自分の身体を後ろから抱き締める腕に触れて、昨夜のことを思い出す。

(夕べは隼人と食事に行って…)

定期的に開かれるビリヤードの大会。
私が見に行くとやる気が倍増するという隼人の言葉を受けて、いつも通り隼人の試合を見守った。
何度か見に行くうちにビリヤードのことも分かるようになってきた私は、改めて隼人の腕前に感心した。
隼人の様子を見つめながら、ミルクセーキを味わうように飲む。
そして、大会はいつも通り・・・と言ったら他の参加者に失礼だけど、隼人の優勝で幕を閉じた。
それから、隼人と夕食を食べ、「優勝のご褒美をちょうだい」と耳朶を噛まれたところまでを思い出して、私の頬は熱くなった。

(~っ!!)

初めての夜ではない。
何度も身体を重ね、隼人の体温を覚えた身体には、彼の腕の中はとても落ち着く場所になっていた。
だけど、こうして二人で迎える朝にはまだ慣れなくて、意識がはっきりしてくると段々羞恥で身体が火照ってくる。

「起きたんだ?」

「-っ!?は、隼人…起きてたの?」

「腕の中のお姫様がもぞもぞと動き出したあたりで」

「ご、ごめんなさい…!起こしてしまって」

きゅっと隼人の腕をつかむと、彼は甘えるみたいに私に頬ずりをする。
それがくすぐったいけど、心地よくて私は笑みを浮かべる。

「耳、赤くなってる」

隼人は小さく笑うと、私の耳朶に口付けを落とした。
その甘い刺激が、昨夜の名残を思い出させる。

「隼人」

「ん?」

時折考える事が、ふと零れた。

「私ね、時々考えるの。
もしもヒタキにあんな事件が起きなくて、あのまま隼人と結婚していたらって」

「うん」

こうやってフクロウで一緒に働くようになって、私は隼人という人を知って、恋をした。
外の世界で働く事で、今までの私の世界がどれだけ小さなものだったのかを痛いほど知った。
ー悪意、というものもだ。
そういうものからずっと守られてきた私は、家のために結婚をしようとしていた。

「どんな出会いだったとしても…多分、最初は警戒したと思うし、心も開けなかったかもしれないけど、あのまま隼人と結婚していても、私はあなたを好きになったんじゃないかって思うの」

隼人は素敵な人だ。
まっすぐで誠実に私を愛してくれる隼人に、きっと私は惹かれていっただろう。

「きっと隼人と恋をする運命だったんだと思う。
だけど、私は隼人と一緒に働いて、あなたを知っていって、恋に落ちた今が一番幸せ」

そんな風に思うのは、今がびっくりするほど幸せだからかもしれない。

「はぁ~」

私に回された腕がぐっと力が籠もった。

「そんな可愛い事、朝から言われたら…」

私を抱き締めていた腕が離れたかと思うと、気付けば隼人が私の上にのしかかるような体勢になった。

「離れたくなくなるんですけど」

触れるだけの優しい口付けが落とされた。

「えっ…あ、」

隼人の瞳が酷く熱っぽく見えて、それは昨夜の名残なんかじゃなくて、今灯った熱に見えた。

「もう少しだけ、貴女を独占してもいいですか」

その意味を分からない程、子どもじゃない。
言葉にするのは恥ずかしくて、こくりと頷くと、もう一度隼人と唇が重なった。

 

どんな私になってたとしても、きっとこの人の事を愛しただろう。

そんな事を考えながら、私は隼人の背中に手を回した。

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