至さんの瞳の色は綺麗だ。
咲也くんの瞳の色に似ているんだけど、至さんの方が透き通った印象を与える。
今日は大量に食材の買出しがあったので、至さんにお願いをして車を出してもらった。
至さんもゲームを買う予定があったらしく、快く車を出してくれた。
寮は育ち盛りの男の子が多いので、何よりも米の消費量が多い。
特売しているお店を見つけて大量に買わないとあっという間に底をついてしまう。
至さんと並んで買い物をしているとすれ違う女の人が至さんを見て、振り返る事しばしば。
その視線につられて、ふと隣を歩く至さんの瞳に目を奪われた。
「至さんの目、綺麗ですよね」
まるでキラキラとした宝石みたいな瞳だ。思わず口をついて出た言葉に至さんは少し驚いた顔をする。
「何、監督さん。口説いてるの?」
「え、違います!」
「そう、残念」
お米を買い終わり、一旦荷物を車に運んでからもう一度お店へ戻った。
「後は日用品を買うだけなので、至さんゲーム見てきていいですよ」
「おけ。じゃあまた後で」
至さんと別れて、日用品を買う。
思いのほか早く終わったから至さんがいるであろうゲーム売場へと向かう。
至さんはなにやら真剣な顔をしてゲームを探していた。(手には既に何本かのゲームソフトがあるように見える)
まだ時間がかかりそうだったので、私は近くのアクセサリーショップに目を向けた。
(…幸くんに洒落っ気がないって言われたからじゃない。そうじゃない)
つい先日、幸くんにもっとオシャレをしたらどうだと言われたのだ。
とは言うものの、普段出かける時も知り合いの劇団の手伝いなどが多くて、動き回ることを前提にした服装になるのでスカートははかない。
髪を一つにまとめる事もあるけど、黒のヘアゴムでまとめてしまう。
『アンタまだ若いんだからもっとオシャレした方がいいんじゃない』と、幸くんにため息まじりに言われてしまったのだ。
アクセサリーでも身につけたら少しはオシャレに見えるだろうか。
ショーケースに飾られているキラキラと輝くアクセサリーを見つめて、思わずため息をついてしまった。
「監督さん、どうかした?」
「あ、至さん。もう終わったんですか?」
「うん、バッチリ」
至さんの手には買い物袋がぶら下がっていた。
沢山買えたようで何よりです。
「アクセサリー? 珍しいね」
「こないだ幸くんにオシャレしたらどうだって言われちゃって」
「ふーん」
そう言って至さんは私が見ていたアクセサリーを覗き込む。
「これとか可愛いんじゃない?」
「あ、本当だ」
至さんが指さしたペンダントはハートに花があしらわれた可愛らしいものだ。
「これ、至さんの瞳の色に似てますね。ピンクトパーズだ」
「じゃあ決まり。すいません、コレください」
「はい、ありがとうございます」
「え、至さん?」
店員さんに声をかけると至さんはあっという間にそのペンダントを購入していた。
「はい、どうぞ」
至さんは買ったばかりのペンダントの包みを私に差し出した。
「え、でも…」
「いつも頑張ってる監督さんにご褒美」
そう言われて断れるわけがない。私はその包みを受け取った。
「ありがとうございます」
「うん」
私はなくさないように包みをカバンにしまう。
「これつけてたらいつでも至さんと一緒みたいですね」
「はは、とんでもない台詞を言うね。監督さんは」
至さんは困ったように笑うと、私の手を取った。
「―っ」
「今は一緒にいるんだから、これくらい良いでしょ?」
驚いて思わず至さんの顔を見ると、心なしか至さんの頬が赤くなっていた。
それにそんな瞳で見つめられたら駄目だなんて言えない。
「…はぐれないように、ですよ」
「どっちが?」
「至さんが」
「俺のほうが年上なのに」
「ペンダントありがとうございます。大切にしますね」
繋いだ手を少しだけ強く握る。
ペンダントよりも、この手がどれだけ嬉しいか…至さんはきっと気付かない。
彼の瞳に似た宝石が、この気持ちを届けてくれたらいいのにな、なんてひっそりと願った。