及第点(月刊少女野崎くん:若瀬尾)

いつも傍若無人で俺を振り回してばかりの瀬尾先輩の弱点を知った。

 

「若ー、ファミレス寄って帰ろうぜー」

ミーティングも終わり、後片付けをしていると瀬尾先輩が体育館の隅に転がっていたバスケットボールを弾ませながらいつもの事のように俺を誘った。
周囲にいた友人たちは巻き込まれまいと蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「それはいいですけど瀬尾先輩、ボール片付けるんで返してください」

「はいはい」

瀬尾先輩はシュッとボールを投げてよこすと、受け取った俺を見て嬉しそうに笑った。

「それじゃあ後でなー!」

瀬尾先輩は……子供みたいな人だ。
楽しい事があれば愉快そうに笑うし、興味がある事を見つけると目を輝かせて近づいてくる。嫌なことがあれば不満げな顔をするし、分かりやすい。

「若松は凄いな…あの瀬尾先輩を相手にできるんだから」

「さすが瀬尾担当だな…」

仲間達は口々にそう言って俺の肩を叩いた。
確かにはじめの頃は瀬尾先輩の扱いが分からず、睡眠不足の原因になったり、胃が痛くなったこともあったけど、今はそこまで嫌じゃない。

後片付けも終わり、制服に着替えて部室を後にすると瀬尾先輩が下駄箱の前でしゃがんでいた。

「お待たせしました、先輩」

「お、若!」

声をかけると瀬尾先輩は嬉しそうに目を輝かせた。
そんなにファミレスに行けることが嬉しいんだろうか。
瀬尾先輩は子どもみたいな人だからな…しょうがない。

「瀬尾先輩」

「ん?」

待ちきれなかったのか、俺が靴を履き替える前に立ち上がっていた瀬尾先輩の手を両手で握る。野崎先輩の家にあった少女漫画で見て覚えた告白のシーンのように。

「瀬尾先輩、好きです」

にっこりと笑って瀬尾先輩にそう告げると、さっきまで嬉しそうにしていた顔が一転して困ったように俺から目を逸らす。
いつもなら逃げるように距離をとるが、今日は手を繋いでいるので逃げられない。
こういう時の先輩は素直に可愛いって思ってしまう。

「先輩、変な顔してますよ」

「若が変なこというからだろ!」

むっとすると慌てて俺の手を振りほどいた。

「好きだって言われて慌てる先輩は可愛いですよ」

「だからそういうのは…!!!」

あんまりいじめると可哀想だから今日はこれくらいにしておこう。
俺は瀬尾先輩のカバンを左の肩に自分のと一緒にかけた。

「嘘です、嘘。気にしないでください」

「そ、そうだよな!あーびびったぜー」

安心したように俺の右側に立つ瀬尾先輩。
他の誰かになついて、迷惑をかけるくらいなら俺の隣にいればいい。
振り回されて散々な時もあるけれど、慌てふためく先輩を見れるのは俺だけだからそれで多目に見よう。

「さ、若!今日は新作パフェ制覇するぞー!」

「俺そんなに食べれませんよ…!!」

ご機嫌な様子で俺の肩を抱いてきた瀬尾先輩に俺も思わず笑みを零した。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (7)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA