いただきます。(ルド梓)

ルードくんと一緒に暮らすようになってまだ数週間。
蠱惑の森で一緒に暮らしていた時も一つ屋根の下だったけど、二人きりの生活ってちょっと照れくさい。
今日は私が朝ごはんの当番だったので、先に起きて台所で支度をしていた。
ルードくんが作る食事はなんでも美味しいけど、どちらかといえば洋食のほうが得意だ。
だからというわけでもないけど、それなら私は和食の腕を上げよう!と自分が当番のときは和食を作るようにしている。
今日の朝ごはんはねぎとお豆腐のお味噌汁と、鯖の塩焼き、ほうれん草のおひたし、卵焼き。
献立に必要なものを取り出し、作り始めようとしたその時だった。

「梓さん」

「どうしたの?ルードくん」

身支度を済ませたルードくんが台所にやってきた。
なにやら真剣な表情で私を見つめると、意を決したようにルードくんが手を握った。

「僕にも卵焼きの作り方、教えてください」

「・・・え?」

それは唐突なコトバだった。

 

 

 

 

「・・・えーと、じゃあはじめるね」

「はい、よろしくお願いします」

ルードくんが礼儀正しくしてくるから、私も自然と背筋が伸びた。

「まず卵を割ります」

卵を割ってかき混ぜ、味付けをする。
鍋も同時進行で温めておくことも忘れない。
きっと色々なものを作れるルードくんなのだから、卵焼きの作り方も知っているだろうに・・・
どうしたの?という質問をさせない真剣な瞳に圧されて、私は一つ一つの工程を伝えた。

「これで完成です」

「ありがとうございます」

完成した卵焼きはちょっと緊張して作ったせいか、いつもより焦げてしまった気がする。
まだ熱い卵焼きを包丁で切り分け、一つをルードくんの口元へとやった。

「あ、梓さん?」

「味見、必要でしょ?」

「・・・はい」

差し出された卵焼きと私の顔を交互に見つめ、小さく頷く。
それが可愛らしくて、ちょっとからかいたくなった。

「あーん」

「・・・あーん」

促されるまま口を開け、そっといれた卵焼きを咀嚼する。

「美味しい?」

「・・・っ、ええ、とても美味しいです」

「良かった。それじゃあ朝ごはんの支度しちゃうからルードくんは待ってて」

「いえ、私も手伝います」

「でも、今日は私の当番なのに」

「私が朝から無理を言ったんです。手伝わせてください」

「・・・うん、お願いします」

今日の献立を伝えると、ルードくんは相変わらず手際よく料理を手伝ってくれた。

「ねえ、ルードくん」

「なんですか?」

「どうして急に卵焼きの作り方なんて」

「・・・」

「教えて欲しいな」

「・・・以前、虎が梓さんに習ったというのを思い出したんです」

いつかの夜。
眠れなくて台所に行くと、虎がいて。
卵焼きを教える流れになったのをそのコトバで思い出した。
懐かしいな、あの頃。

「もしかして、虎に妬いたの?」

「・・・当たり前でしょう」

冗談で言った言葉を頷かれてしまい、今度は私が照れる番だ。

「・・・ルードくん」

「あなたの事なら何だって知りたいんです、僕は。
きっとこの卵焼きにだってあなたの思い出が詰まっているのでしょう?」

「うん、そうだね。
今度聞いてもらってもいい?」

「ええ、もちろんです」

気付いたら、見つめ合って笑いあっていた。
照れを誤魔化すように少し冷えた卵焼きをつまみ食いすると、いつもより甘く感じた。
もしかして、ルードくんと一緒に作ったからかな。
甘めの卵焼きって熱いうちも美味しいけど、少し冷めた方が甘さが分かるからちょうど良かったかも。

「じゃあ、そろそろ朝ごはんにしよう」

ルードくんと囲む食卓が、幸せな一日の始まりだ。

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