最愛(夏深)

二人で見上げた星空。
夏彦が、私に星を見せてくれなかったらきっと今の私たちはなかっただろう。私と夏彦の運命は、交わることなく・・・
誰かに自分の弱さをさらけ出すこともなく、守らなければならないという責務に溺れるだけだっただろう。
能力目当てで攫ってきたとしても、夏彦は、初めて私を私として扱ってくれた人なのかもしれない。

 

 

 

「夏彦、今日なんだけど」

「っ!!」

ノックの返事を待たずに扉を開くと、驚いた顔をして夏彦が振り返った。

「あ、ごめんなさい」

「いや、大丈夫だ。どうした?」

「今日良かったら買い物どうかな、と思ったんだけど忙しそうね。
私ひとりで行ってくるわ」

「いや、俺が行ってくる」

「え、それじゃ私も一緒に」

「いや、俺が行ってくる」

「・・・そう?それじゃお願いしてもいいかしら」

「ああ」

なんだかぎこちない夏彦を疑問に思いながらも彼に買い物をお願いすることにした。
メモを書いて渡すと、私の手をひいて抱き寄せられる。

「・・・夏彦、どうしたの?」

突然の抱擁に驚いて、私は彼を見上げると返事の代わりにキスをされた。

 

 

 

 

 

「変な夏彦」

夏彦を送り出すと、夏彦のいない隙に部屋を掃除して夕食の下ごしらえを始めた。
料理本を見ながら野菜を切っていたが、やっぱり夏彦の様子が気にかかって思わず零れた独り言

「ふっふー。それはですね!夏彦さんは恋する健全男子だからなんですよ!」

「きゃっ」

突然現れた雪に驚いて、思わず包丁を落としそうになる。

「わ、気をつけてくださいよ~!
夏彦さんにバレたらお仕置きされちゃいますからね!
いや、待てよ・・・お仕置きされたいな。
どうして夏彦さんは男なんでしょうね!」

「・・・さあ。
で、何か知ってるの?雪」

「あっれー、華麗にスルーですか。
冷たいお嬢さんには雪ちゃんにとってご褒美です!」

「・・・」

夏彦、帰ってこないかしら。
雪の扱いに慣れてきたといえどやっぱり彼のいう事はよく分からない。
ひとまず雪のことは気にしないで包丁をまな板の上に置いて、料理本を確認しようとする。

「夏彦さんはお嬢さんのことがすっごい好きっていうことなんですよ」

「おい、雪」

「だからこうやって俺のことも冷たく・・・、あれ?夏彦さん」

振り返ると冷えた目で雪を見つめる夏彦が立っていた。
子猫を捕まえるように首根っこを掴むとキッチンからあっという間に追い出した。彼がもう入って来れないようにドアも施錠した。

「おかえりなさい、夏彦」

「ただいま、深琴」

買ってきた荷物をテーブルの上に置くと、なにかを隠すようにぎこちなく夏彦が動く。

「どうかしたの?」

「・・・深琴、目を閉じてくれないか」

「ええ、いいけど」

夏彦に言われたとおり、目を閉じると夏彦が何か動かしている音がする。
何をしているのだろうと考えていると夏彦の声が聞こえた。

「目をあけてくれ」

言われるがまま目を開くと、そこには11本の赤い薔薇の花を持った夏彦がいた。

「・・・夏彦、どうしたの」

「深琴、誕生日おめでとう」

「・・・っ」

その言葉に私は驚きを隠せなかった。
毎日研究に忙しい夏彦は、日付感覚や曜日感覚なんて全然ない。
だから今日が私の誕生日だということを覚えているわけないと思っていたのに。

「受け取ってくれないか」

「・・・ええ、もちろん」

彼から花束を受け取るとき、我慢できずに涙がこぼれた。

「どうした、嫌だったか」

「違うわ」

慌てて涙を拭い、彼を見つめる。

「嬉しいの、すごく・・・すごくうれしくて」

花束を受け取ると、夏彦が優しく私を抱き寄せた。

「あなたが私の誕生日を覚えていてくれてうれしい」

「当たり前だ」

抱き締める腕に少しだけ力が籠もる。
このままだったらせっかくもらったお花が潰れてしまう。
慌てて花束ごと腕を夏彦の背中に回した。

「お前に関することで俺が忘れることなんて何一つない」

「夏彦・・・」

どんな表情で言ってるんだろう。
顔をあげると、耳まで赤くなった夏彦がいて驚いてしまう。
きっと花束を買うなんて恥ずかしかっただろうな。
その様子を想像しただけで愛おしさがこみ上げてくる。

「夏彦、ありがとう。大好きよ」

「ああ、俺もお前を愛してる」

求めるように唇を寄せると、夏彦は優しく笑って、いつもより甘いキスを私にくれた。

 

 

-11本の薔薇は、最愛

 

Happy BirthDay Mikoto

 

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