図書室で終夜を待つ時間が好きだ。
宿題がある時はそれを片付けたり、ないときは本を読んだりして彼を待つ。
今日は何もないので、本を読んでいた。
今度、終夜が出る映画の原作本・・・だったりする。
終夜が雑誌に載っていたり、テレビに出ているのを見るといっつもドキドキする。
自分の知らない終夜が、そこにはいるから。
「おい、お嬢」
私のことをそうやって呼ぶのは一人だけ。
トラから声をかけてくるなんて珍しい。
「なに?トラ」
振り返ると、トラが悪さをした猫を捕まえるように終夜を連れていた。
「どうしたの!?二人とも!」
「お前、こいつの保護者なんだからちゃんと面倒見ろよ」
「ふむ。寅之助。私はもう自分で歩けるぞ」
「あーあー、知ってるよ。てめえが俺のいう事全然聞かないで池に突っ込もうとした事もな」
「池!?」
「池の傍に綺麗な石があってな。それを取ろうと手を伸ばしていたところで寅之助に出会ったのだ」
「・・・ありがとう、トラ」
「おう、じゃあな」
トラから解放された終夜は私の手を両手で握り締めた。
「それで、その綺麗な石はどうしたの?」
「それがな・・・手を伸ばした時に池に落ちてしまったのだ」
終夜は悲しそうな表情になる。
「撫子に見せてやりたいと思ったのだが・・・すまぬ」
「終夜・・・」
いつもそうだ。
彼は自分が見つける綺麗なもの、素晴らしいものを私にも見せてあげたいと言ってくれる。
私はその言葉だけで充分なのに
「終夜、いつもありがとう。私のことを思ってくれて」
空いてる手を彼の手に重ねて、きゅっと握る。
悲しそうな表情が、ようやくほぐれた。
優しい瞳に私が映る。
「その石も見たかったけど、私は終夜が笑っている顔を見れる方が嬉しいわ」
「撫子・・・」
終夜は私の手を離すと、そのまま私を抱き寄せた。
抱き締める腕は温かくて、優しかった。
「ありがとう、撫子。私は幸せだ」
「・・・うん」
抱き締め返そうとして、ふと気付いてしまった。
ここがどこかということを。
「・・・ねえ、終夜」
「ん?どうした?」
あまりにも嬉しそうに笑うから注意なんて出来ずに私も彼を抱き締め返した。
知らない終夜に出会うとドキドキする。
けれど私が知っている愛おしい表情は、私が彼に恋をしていることを何度も教えてくれる。