美味しいタルトのつくりかた。(カルディア)

自分の身体で唯一毒の影響を受けていない髪を両手で
まとめてフラン特製の髪留めでポニーテールにしてた。

(・・・よし!)

私は気合を入れるように両手を強く握り締めた。
場所はキッチン。
私の目の前にはリンゴ、バター、薄力粉、砂糖・・・といったものが揃っている。
あとはインピーが私の為に書いてくれたメモ。
これから何をしようとしているかというとそれはお菓子作り。
普段、みんなに訓練をしてもらっていてとても感謝している。
それを言葉だけじゃなくて何かで返したかった。
インピーの作る食事はとても美味しくて、みんなで食べるととても楽しい。
一人で過ごしていたあの日々にはなかったとても大切な時間のうちの一つ。
私にもそういう時間が作れればいいな、と考えていたところに街で良い香りがするお店をみつけた。
そこで思い立った。
作ったことはないけれど、お菓子なら手袋したままでも作れるかもしれない。
インピーに相談して作り方を教えてもらい、今にいたるのだ。
リンゴの皮を危なっかしい手つきで剥き八等分にすると、それを鍋にいれて砂糖とワインと一緒に煮ていく。
その作業をしながらタルトの生地を作っていく。
料理は手際のよさが大事だからね!カルディアちゃん!
インピーは頑張って!と言ってメモを渡してくれた時にそう言っていた。
その言葉を何度も思い出しながら、作業を進めていく。
生地を作ってオーブンに入れて・・・というところまでは自分でもとても順調だったと思う。
あとは良い色合いになるまで待つだけ。
そんな時、私は普段使わない集中力を使っていたからかキッチンの椅子に腰掛けながら
ついうとうとしてしまい、重くなる瞼に逆らえずそのまま目を閉じてしまった。

「・・・ィアちゃん、カルディアちゃん!」

肩をゆすられる感覚ではっと目を覚ました。
目の前にはインピーとフランがいた。

「っ!!」
「良かった、目を覚ましたみたいだね」
「ど、どうして?」

一体何が起きたのだろうと辺りをきょろきょろするとテーブルの上には表面が真っ黒にこげたものが置いてあった。
それは多分、私が作っていたタルトだ。

「あ・・・」
「ごめんね、俺が気付くの遅かったから焦げちゃった」

インピーが申し訳なさそうに言った。
それを聞いて私は首を左右に振る。

「インピーは悪くない。私は転寝しちゃったから・・・」

あれじゃ食べる事出来ないな、とがっかりする気持ちを出さないようにするが
言葉尻が弱くなる私を見てフランがそっと頭を撫でてくれる。

「元気出して、カルディア」
「ありがとう、フラン」
「でもどうして急にお菓子作りを?」
「・・・みんなに喜んで欲しかったの」

ぽつりぽつりと考えていた胸の内を明かす。
日々のお礼にみんなを笑顔にしたかったこと。
インピーの作る料理をみんなで食べるあの時間がとても好きだということ。
二人はそれを黙って聞いてくれた。

「ね、カルディアちゃん」

インピーはしゃがんで私と向かい合う。
そうしてぎゅっと両手を握りながら私を見上げた。

「それなら今度俺と一緒に作ろう?

俺はカルディアちゃんがそういう気持ちになってくれたことがすっごくすっごく嬉しいから」

「そうだよ、僕も手伝うよ」
「二人とも・・・ありがとう」

一人で出来ないならみんなで出来ればいい。
一人で全て出来なくてもいいんだ。
それは甘えじゃなくて。

信頼。
怪物だといわれ続けた私がこんなに優しい人たちと信頼し合える時間が来るなんて。

「嬉しい、ありがとう」

それから焦げたタルトを切り分けて、3人で味見した。
苦くて、よく味は分からなかったけど思わず笑顔になった。
こんな時間が、とっても好き。
次はきっとうまく出来る。
だって私はもう、ひとりじゃないから。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (9)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA