「正宗さん、この本みてください」
こはるが一冊の本を持って、俺の隣にやってきた。
表紙を見ると、酷く懐かしい本だった。
「それ、船にもあった本だな」
「そうなんです!
以前整理した時は気付かなかったんですけど、今見つけて嬉しくなっちゃいました!」
こはるが記憶を取り戻して、暫く経つ。
記憶を取り戻した後もこうして穏やかに過ごせて本当に良かった。
寄り添うようにこはるが俺の隣に座ろうとするので、折角なので俺の前をぽんぽんと叩いた。
「正宗さん?」
「こはる、ここにおいで」
「・・・はい」
こはるを俺の前に座らせると、後ろから包み込むように抱き締めた。
本を開くと、二人で読み始める。
この本は、童話だ。
お姫様が王子様と幸せに暮らしました、というよくあるストーリー。
俺が隠し忘れた本をこはるが見つけてしまったんだ。
内容はありがちなものだったので、まあセーフといえばセーフだろうが自分の詰めの甘さに当時はため息をついた。
その時、こはるは俺を心配そうに見つめて、俺がこはるにするように頭をなでてくれようとした。
でも、手が届かないとしょんぼりしたこはるを結局俺が頭をなでて慰めたんだ。
「なあ、こはる」
「はい、なんでしょう。正宗さん」
こはるは、俺の名前を何度も呼ぶ。
二人しかいないんだから、名前を呼ばなくても成立するだろう。
だけど、何度も何度も呼んでくれる。
こはるのそういうところも、愛おしい。
「俺は凄く幸せだ」
「私も正宗さんと一緒で、すごくすごく幸せです」
本を閉じると、こはるの頭にキスを落とす。
同じシャンプーを使っているはずなのに、こはるが良い匂いがする。
「こはるの匂いが良い匂いだな」
「・・・!恥ずかしいです、正宗さん」
「いいじゃないか、今は二人だけだし」
「いえ、あちらに」
こはるがそっと入り口を指差す。
子供たちが俺たちをじっと見つめていた。
「っ!!」
「まさむね、むっつりー」
「ちょ、お前たち!」
「逃げろー!!」
蜘蛛の子を散らすように子供たちはあっという間に逃げていった。
はぁ、とため息をつくとこはるが笑っていた。
「どうした?」
「いえ、幸せだなぁって改めて思っていました」
「ああ、そうだな」
微笑むこはるの頭をそっと撫でる。
こはるは気持ち良さそうに目を細めた。
お前といるだけで、こんなにも幸せだなんて。
俺がこんなに幸せになる日が来るなんて思っていなかった。
お前の全てを愛しているけれど、やはり笑った顔が一番愛おしい。
子供たちにもう見られまい、と決意しつつも結局こはるを抱き寄せていた。