いつもなら風呂から上がって身支度を整えるまでの流れはてきぱきとしていると思う。
だけど、今日は風呂から上がってきて、髪の手入れをせずにソファに座り込んでいた。
(・・・すっげー眠そうな顔)
ランの後に風呂に入った俺が上がってきてもそのままの状態だった。
顔を覗き込めば、今にも寝てしまいそうな顔をしていた。
「ラン、髪乾かさないと風邪ひくぞ」
「・・・うん」
返事はするものの、動こうとしない。
さすがにこのまま放置するわけにはいかないだろう。
ランの肩にかかっていたタオルを取ると、いつもランが俺にしてくれるように出来る限り丁寧に拭いてやる。
よほど疲れているのか、乾かし終わるまでされるがままになっていた。
「いいぞ、ラン」
「ありがと、ヴィルヘルム」
「ん。ほら、もう寝ろよ」
「うん」
小さく頷くとソファに丸まって寝ようとする。
駄目だ、今日はきっとこいつ動けないんだ。
丸まろうとした身体を抱き上げると有無を言わさず寝室へと運んだ。
「ほら、寝ろ」
ベッドにおろし、布団をかけてやる。
まだ自分の髪を乾かしていないので、戻ろうとすると服の裾を掴まれたことに気付いた。
「・・・いっちゃうの?」
眠いからだろう、とろんとした瞳で俺を見上げる。
そういう表情に、俺は弱い。いや、男なら誰だって弱いだろう。
「ばーか、あんまり可愛い事言うと襲うぞ」
冗談にして、ひとまずランから離れよう。
そう思ったのに・・・
「いいよ?ヴィルヘルムなら私は・・・」
いつもなら顔を赤くして怒るのに。
なんでこういう手を出しちゃいけなそうな時に限って煽るんだろうか
「お前・・・」
じっとみつめる瞳はどう見ても誘っていて。
これは不可抗力だ。
服の裾から手を離させるとそのまま組み敷くようにランに覆いかぶさる。
眠そうな目尻にキスを落としてから、舌を頬から唇まで這わせる。
「んっ・・・」
小さく息を吐いたランの唇をそのまま塞ぐと、ぎこちなく舌を絡められる。
手を繋いだまま、こうやってキスをするのが好きだ。
手をぎゅっと握られると、求められているようでくらくらする。
長いキスを終えて、そのまま首筋に顔を埋める。
鎖骨に軽く歯を立てると、いつもは身体が跳ねる。
が・・・
「・・・おい」
何にも反応しない事を不思議に思い、ランの顔を見るとすやすやと寝息を立てていた。
「この状況で寝落ちするか!?普通!!」
起こさないように出来る限り声の大きさは抑えたが、わめき散らしたい気持ちに変わりない。
繋がれた手をそっと外し、俺はため息をついた。
「髪・・・乾かしてくるか」
ベッドから降りて、部屋を出る直前に振り返る。
「おやすみ、ラン」
明日は絶対寝てても起こしてやる。
そう心に誓いながら俺は部屋を出た。