トラとの待ち合わせ場所へと急ぐ。
まだ時間には余裕があるけれど、早くトラに会いたかった。
顔を見れば安心できることを知っているから。
案の定、早く着いてしまい近くのベンチに座って彼を待つ。
スカートの上で手をきつく握り締める。
「撫子」
気付けばトラが目の前に立っていた。
立ち上がろうとすると、肩を軽く抑えられて立ち上がれない。
それからトラが私の隣に座った。
「・・・どうしたの?」
「どうしたのは俺の台詞だっつーの」
わざとらしくため息をつくと、私の頭を引き寄せる。
子供をあやすみたいに私の頭をぽんぽんとする。
「なんで分かるの?」
私が落ち込んでいた事を。
まだ何も話していないのに。
「手、強く握んのな、お前って。
なんかあると堪えるようにそうやって」
指摘されると、私はようやく手から力を抜くことが出来た。
トラに隠し事は出来ないみたいだ。
「少しだけ嫌なことがあっただけよ」
「あっそ」
それ以上は何も言わず、トラは私を抱き締めてくれていた。
トラは肝心な時に優しい。
それがずるくて、私は敵わない
「・・・トラ、すきよ」
「あー、知ってる」
「うん」
トラの手をそっと握る。
私が握るのは自分の手じゃない。
この人の手だ。
それを思い出すと、安心して笑えるような気がした。
「んじゃ、たまにはゲーセン行くか?」
「そうね、今日は付き合ってあげる」
「へーへー。エスコートしてやるよ、お嬢様」
にやりと笑うと、私の手を握り返してくれた。
ふと、小学生の頃二人で夜の学校に忍び込んだことを思い出した。
トラはあの頃から私の反応を見て楽しんでいたわね。
「トラ」
歩き始めようとしたトラの手を引き寄せると、背伸びをして頬にキスをしてみた。
「お前、行き先変更するぞ」
「え?」
珍しく不意打ちのキスに照れたのか、トラは不機嫌そうに私を睨んだ。
「だってお前からそういう真似するってことは誘ってんだろ?」
「・・・っ、そんなわけないでしょ」
繋いだ手はそのままに私たちは歩き始めた。
さっきまで抱えていた苦しさは、どこかへ行ってしまったようだ。