私の身体から毒が消えた。
フランが解毒剤を開発してくれたおかげで今はもうどんなものに触っても溶かしてしまうこともないし、
決められた服以外にも好きに着ることが出来る。
そして、インピーにも触れてもらえる。
「カルディアちゃんっ!この服どうかな?」
材料を調達しに行ってくると出かけていったのは昼前だった。
帰ってきたら昼食を食べると言っていたので、下準備だけして私はインピーの帰りをシシィと遊びながら待っていた。
「・・・インピー、服はこないだも買ったよ?」
「ごめん。でもさ!カルディアちゃんに似合うと思って!
お店の前通りかかって、これだー!って思っちゃった!」
インピーに差し出された服は、どちらかといえば昔ずっと着ていた洋服に似ているだろう。
コーラルレッドを基調とした色合いで、下にいくほど濃くなっているグラデーション。
インピーは多分、ワンピースが好きなんだろうなって以前から思っていたけど、今回もそうだ。
でも、私も好きだからちょっと嬉しい。
動きやすい格好も良いけど、たまにはインピーが喜ぶ格好をしたいから
でも、
「インピー・・・無駄遣いは駄目」
「はい・・・しばらく我慢する」
シシィでさえ、そんなに分かりやすく落ち込まないのに。
しょんぼりするインピーを見て、私はくすりと笑った。
「インピー、昼食食べるでしょ?」
「っうん!!カルディアちゃん大好きだよ!」
インピーは表情をぱっと明るくさせ、それから私をぎゅっと抱きしめてくれた。
それから二人で遅めの昼食をとり、その後はインピーの開発の手伝いをしたりして午後を過ごした。
昼食が遅かったので、夕食もいつもより少し遅めだ。
インピーは買出しのときに仕入れてきたという活きの良い魚を使った料理を作ってくれた。
今は二人しかいない屋敷だけど、またみんなで揃ってご飯を食べる時にこれも用意したら喜ぶだろうなって考えていた。
「カルディアちゃん、お風呂入った?」
入浴後、寝着に着替えた私を見てインピーが寄ってきた。
「うん、お湯冷めちゃうからインピーも入った方が良いよ」
「りょうかーいっ」
弾むような声で私に返事をするインピーの背中を見送った。
インピーが戻ってくるまで、本でも読もうかな。
サンの部屋には沢山の本がある。好きに読んで構わないと彼には言われていたので、私はこうして時々本を借りて読む。
私が読むのは御伽噺のような、創造の物語が多かった。
だから今日もそういう本を選んで、インピーとの寝室へと持って戻った。
インピーが戻るまでベッドに入って借りてきた本に目を通していく。
いつも通りのはずだった。
「え・・・」
けど、そこにはある単語があって私は息が止まるかと思った。
「あー、良いお湯だった~」
湯上りのインピーが部屋に入ってきて、私はないはずの心臓が跳ねるような感覚に陥った。
「ん?どうしたの?カルディアちゃん」
「インピー・・・あの、」
聞かなくては。
それがもしも本当に真実だとしても、私は彼のことを受け入れたい。
だって彼は毒を持つ私を愛してくれたんだから。
「インピーは・・・血を吸わなくて大丈夫なの?」
「へ?」
きょとんとした顔でベッドにもぐっていた私を見つめる。
くるまっていたシーツから抜け出し、私は姿勢を正してインピーと対峙する。
「インピーは吸血鬼でしょう?
吸血鬼って血を吸わないと死んじゃうんでしょう?」
私は今までインピーが血を吸う姿なんて見たことなかった。
もしかしたら我慢していたのかもしれない。
一人で苦しんでいたのかもしれない。
そう思うと泣きたくなった。
「・・・実はそうなんだ」
「インピー・・・
それなら私の血を吸って!」
普通の人間じゃないけれど、それでもインピーの役に立ちたい。
私は彼の両手を包み込むように握った。
インピーの頬が少し赤らむ。
「ありがとう、カルディアちゃん」
そういうとインピーは私の手をそっと外して、身体ごと抱きすくめると私の首筋に顔をうずめた。
ぺろりとインピーの舌が私の首筋を舐める。
その感覚に肌が粟立った。恐怖からじゃない。
なんというか・・・その、インピーとそういう事をする時のことを身体が思い出してしまった。
それから軽く歯を立てられるときつく吸い上げられる。
「んっ・・・」
思わず声を漏らしてしまったが、恥ずかしくて両腕をインピーの背中に回してきつく抱きしめる。
「・・・ごめん、カルディアちゃん」
顔を上げたインピーと視線がぶつかる。
「俺、血なんて吸わないよ?」
「・・・え?」
インピーは少し申し訳なさそうに笑って、それから言葉を続けた。
「よく物語にはあるけどさ、吸血鬼は人間の生き血を吸うとか、十字架だめー、とか
ニンニクも日光もだめでーすって。
俺、全部大丈夫じゃない?」
「あ・・・」
確かに、日中は外で活動しているし、ニンニクだってよく料理に使っている。
そう気付くと、身体から力が抜けた。
「インピーのばか」
「ごめん、カルディアちゃんが必死なのが可愛くて」
額に軽く口付けて私の顔色を伺う。
そんな事されたら怒れない。
「知らない」
言葉ではそう突き放すけど、私はインピーの肩に顔を寄せた。
「どうすればご機嫌直してくれる?」
「キスして、」
先ほどの触れ合いのせいで、私はもっとインピーを感じたくなってしまったのだから責任を取って欲しい。
「お安い御用だよ、お姫様」
唇に触れるそのぬくもりに、私は幸福を感じた。
そのままベッドに優しく押し倒され、インピーの髪が私の視界の端で揺れる。
「今日買って来てくれたワンピース、インピーの髪の色に似てるね」
「カルディアちゃんには俺が似合うからね」
「うん、私もそう思う」
二人の夜はこれから、