夜明けなんて来なければいいのに(ナチフウ)

「ふぁーあ、」

思わず大きなあくびが出る。
明日までにこの書類をまとめなきゃ、と一人で作業をしているがついに集中力が切れてしまった。デスクワークはあまり得意な方ではない。
チカイにコツを教えてもらったりしているが、そもそもじっとしている事が苦手な性分なのだ。始めたころよりは集中するコツだったり、色々と身についてきたと思う。

「ちょっと休もう・・・」

誰もいない部屋で一人呟き、私はキッチンへと移動した。

 

「フウちゃん、お疲れ様っす!」

キッチンのドアを開くと、ナチが笑顔で私を迎えてくれた。

「ナチ、ホットココアをお願いできますか?」

「了解っす!」

私の言葉にナチは頷いてくれ、冷蔵庫からミルクとチョコレートを取り出した。ミルクを鍋に入れると弱火でゆっくりと温めていく。
その姿を私はぼーっと見ていた。
時刻は深夜2時半

「ナチは・・・私が起きているから起きててくれるんですか?」

「自分もやることがあって片付けてただけっすよ」

嘘だとすぐ分かる。
ナチは要領よく全ての物事を運ぶ。
だからこんな時間まで起きているなんて私のせい以外あり得ない。

「ごめんなさい、ナチ」

温まったミルクを私専用のマグカップに注ぐと、スプーンでくるくるとかきまぜる。それからオーブンで軽く炙ったマシュマロを浮かべて、私に手渡してくれた。

「自分は皆さんのお役に立てたらそれで十分っす」

私の座る椅子の前に膝をつき、カップを持つ私の手をそっと両手で包んでくれた。その手のひらが温かくて、少し落ち込んでいた気持ちがほどけていく。

「ありがとうございます。
ナチは凄いですね」

「何がっすか?」

「ナチはまわりが見えていて、私にもこうやって優しくしてくれて」

「自分はそんなに優しくないっすよ」

「いいえ、ナチは優しいです」

困ったようにナチが笑う。
それから、視線を彷徨わせてからもう一度私のことを見つめた。

「フウちゃんが自分のことを優しく感じるのは自分がフウちゃんに特別優しくしたいからっす」

「え?」

ナチの言う意味が理解出来ず、思わず小首をかしげる。

「フウちゃん」

名前を呼ばれて、返事をしようと口を開いた。
その時、ナチの顔が近づいてきて、唇が触れた。

「・・・っ!?」

突然のことで私は目を見開いたまま動けなかった。
ナチの唇のぬくもりが、温かいし、ナチをどかそうと思い立っても両手を彼に包まれているのでそれも叶わない。
いや、そんなつもりなんて私には浮かんでいなかった。

「ナチ・・・」

「・・・突然ごめんなさい。
でも、自分も男っす」

ナチは私から離れると、今まで見た事のない表情をしていた。
いつも幼く見えるナチが、凄く大人に見えた。

「あのっ、ココアありがとうございましたっ!!」

慌てて立ち上がるとカップを持ったまま慌ててキッチンを飛び出した。
もう仕事出来るわけがない。
自分の部屋に駆け戻り、ドアに背中をくっつけると自然と力が抜けて座り込んだ。

(・・・キスされた)

どうして?
意識をしたことがなかったナチを、初めて男の人だと意識した。
心臓が激しく脈打つ。
こんなにドキドキするのは生まれて初めて。
そうして、ようやくナチが入れてくれたマシュマロ入りのホットココアに口をつけていないのを思い出した。
おずおずとそれに口付けるといつものナチの優しい味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フウちゃんが慌てて出て行ったキッチンに取り残された。
やってしまった・・・
ずっとそういう風な態度を見せたことがなかったのに、やってしまった。
想いを告げる前にキスしてしまった。
フウちゃんが可愛いのがいけない、なんてユンさんみたいなことを思ってしまうくらい自分はフウちゃんにやられていた。
明日から話してくれなかったらどうしよう。
そもそも自分もフウちゃんの顔をちゃんと見て話せるだろうか。
ああ、夜明けが怖い。

 

 

 

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