いつの間にか眠ってしまっていた私の身体を優しく抱き締める腕。
まるで猫のようだな、と私が丸まって眠る姿をみて恋人が笑ったのは初めての夜。
それから何度かこうして夜を過ごすことがあった。
「ん…やなぎさん?」
「悪い、起こしたか」
「いえ、だいじょうぶです」
まだ重い瞼をこすり、目を開けて時計を確認する。
今日は遅くなると香月には伝えてある。
香月も私が柳さんのところにいることは承知で門限を23時といっているのだ。
事件を追いかけていた頃は一緒にいる時間が当たり前のようになっていたけど、今は警察と探偵。
会おうとしない限り会えない。
香月に言われた門限を守るためには、もうそろそろ支度をしなければならない。
「…愛時さんと離れたくないなぁ」
「…っ、」
まだ眠いから、ついつい想った言葉がぽろりと口に出た。
その言葉を聞いてか、私は柳さん・・・いや、愛時さんの耳が赤くなっていることに気付いた。
「愛時さん?」
「市香、」
瞼をこすっていた私の手をとり、ぎゅっと握る。
愛時さんの手は私の手より一回り以上大きい。
男の人の手ってゴツゴツしていると聞くけど、愛時さんの手はとても綺麗に見えた。
彼の身体のどこが好きかと聞かれたらまず手を挙げるだろう。
あ、でも愛時さんの瞳に自分が映る瞬間も好き。
眠っている私を優しく抱き締めてくれる腕も好きだ。
好きな部分なんて挙げ出したらきりがないもの、何考えてるんだろう。
「そろそろ帰る支度するか」
「…愛時さんはいじわるです」
離れたくないなぁと子どもみたいなわがままをうっかり口にしたのに、何もいってくれない。
不満げに頬を膨らますと、愛時さんは優しく微笑んだ。
「門限破って、未来の義弟に嫌われたくないんだ」
そういいながら私の頬をなでて、額に優しいキスを落とす。
「愛時さんはいじわるです」
「それはもう聞いたよ」
「だけど、大好きです」
明日はお休みだから会えるのに。
それでもやっぱり離れがたくて、私はぎゅうっと愛時さんに抱きついた。
「ああ、俺も好きだよ」
時計を見ると、刻々と門限へと近づいている。
二人とも時計を見ていたらしく、視線が合うと思わず笑ってしまった。
「明日、いっぱい一緒にいましょうね」
「ああ、約束だ」
私たちは指きりをした。
誰かと離れがたいなんて気持ち、私は愛時さんに恋をするまで知らなかった。
こうやって明日の約束をすることがこんなに幸せだということも知らなかった。
「いそぐぞ、市香」
「はい、愛時さん」
身支度を済ませて部屋を後にする。
繋いだ手の温度に私は、さっきと似た幸福を感じた。