cat’s eyes(尊×市香)

「顔」

俺をじぃーっと見つめる目。
今はディスプレイから目を離せないというのに、ベッドから俺を黙って見つめていることは分かってる。
背中につきささる視線が痛い。

「振り向いてないのに私がどんな顔してるか分かるんですか?」

「ご主人様に構ってほしくて仕方ないって顔だろ」

「…そんなことは、ない…はずです」

今、自分も顔を見られない状況だから素直に表情を崩す。
俺の言葉、表情でころころ変わる市香の表情が可愛いと思っている。
だけど、夕食も終わって今日は香月が外泊するらしく、それなら…と市香が泊まることになった。
入浴も済ませ、まだそういう甘ったるい空気に恥ずかしがる市香をベッドに押し倒した時。
携帯が鳴った。
サーバーがダウンしたやら、不正アクセスに対する対処、急ぎのデータ解析なんてものもなかったはずなのに俺の携帯がけたたましく鳴った。
舌打ちをして、市香から離れてパソコンに向かう。
急ぎのデータ解析をしていたが、どうしても処理しきれないという電話だった。
本当だったら戻って処理をした方が確実だ。
だけど、ベッドにちょこんと座っている市香を置いて戻るなんてふざけんな。
1時間であげると電話を切り、送られてくるデータを確認する。
素人がやってるんじゃないんだから、これくらい解析しろと八つ当たりめいた罵りたい気持ちはぐっと堪えた。

「笹塚さん」

「ん」

生返事しかしないのを分かってて市香は話してる。
俺が仕事をしているときは極力言葉を発しないように気を遣っていることも知っていたが、返事しなくてもいいなら話せと言ってからはちょくちょく何かを言うようになった。

「笹塚さんの手って魔法の手みたいですね」

「…なんで?」

「だってさっきからずっと画面をみて、キーボードを打ってて凄いなぁって。
私も事務作業とかでキーボード打ちますけど、笹塚さんみたく出来ないから魔法みたいです」

俺が何をやってるか1割も理解していなさそうだな。
構ってほしくて見つめられてるのかと思ったら、俺の仕事してる姿を感心して見つめていたのか。
きっと今こんな事思っているんだろう、とかそういうことがコイツに関してはことごとく外れる。
そういう部分も好きな要因なのだろう。

 

「市香、」

「はい」

「あともう少しで終わるから覚悟しとけ」

「か、覚悟って」

ああ、きっと今赤くなってるんだろうな。
その顔を見たいけど、今みたら仕事やる気なくすから振り替えらない。

「…私だって、いちゃいちゃしたいんで覚悟とかはいらないです」

「-っ、」

そんな言葉が返ってくると思わなかったから指先が滑った。
打ち間違った箇所を入力しなおす。
「覚悟がいらないなんて台詞、言えないようにしてやらないとな…」

「笹塚さん?」

「5分黙れ」

ああ、もう仕事を終わらせて、後ろのバカ猫が根を上げるまでいじめ倒してやりたい。
背中に視線を送り続けるヤツのはやく見るために俺はキーボードを強く叩いた。

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