幸福な明日(ヴィルラン)

※オリジナルキャラとして二人の子どもが出てきます。苦手なかたは閲覧をご遠慮ください※

 

 

 

 

それはいつもと変わらない朝。

「おい、ヴィルヘルム!!」

「うっ・・・!!」

ぼすん!!と突然身体の上にのしかかってくる二つの塊。
容赦なくみぞおちを攻撃されて、思わず声を漏らす。

「お父さん、おきてー」

「おきろよー!ヴィルヘルム!!」

「うるせぇ!!起きてほしいんならどけろ!」

「きゃあっ」

「うわっ」

二人を乗せたまま、俺は勢いよく起き上がると二人が叫び声を上げた。
休みの日はこうして毎度毎度飛びかかってくる。

「ロニ、ヴィオレッタ!
お前ら、ちょっとは父ちゃんを労われ!」

「やすみの日だからってだらだら寝てると牛になるぞ!」

「お母さんにおこしてきてっていわれたの」

「いっぺんにしゃべんな!とりあえず父ちゃんに言うことは?」

「おはよう、お父さん」

「・・・おきるのがおそいんだよ、ばーか」

「おい、ロニ」

きちんと挨拶が出来たヴィオレッタの頭はなでてやり、ロニの頭を軽く小突く。

「おまえ、何回も言わせんな。ヴィルヘルムじゃなくて、お父さんだろ」

「うるさいんだよ!」

ロニは不貞腐れた表情をして、寝室から逃げていった。
俺譲りの真っ赤な髪とラン譲りの藍色の瞳。
俺のことをヴィルヘルム、とランの真似をして呼んでいるのか、一向にお父さんと呼ぶ気配がない俺の息子。
そして、今俺に嬉しそうに頭を撫でられているのがヴィオレッタ。
ラン譲り・・・のようなそうでないような珊瑚色の髪に俺譲りの紫色の瞳。
いっつもにこにこして、俺に甘えたがる可愛い娘。

「起きた?ヴィルヘルム」

「ん、はよ」

「おはよう」

ヴィオレッタを抱きかかえたままリビングで行くと、ランは食事の支度をちょうど終えたところだったようで、エプロンを外していた。

「支度してくるから先に食ってろ」

「駄目だよ、休みの日の朝はみんなで一緒に食べようって約束したでしょ?」

「ああ、悪い。すぐ戻る」

ヴィオレッタをおろすと、俺は身支度を済ませに洗面台へと向かった。
冷たい水で顔を洗うとようやく頭が覚醒してくる。

(・・・もう4歳か)

早いものだ。
俺が父親になる日が来るなんて・・・想像したこともなかった。

 

 

 

 

 

結婚したばかりの頃。
日曜日は私の買い物に付き合う、と約束してくれてから今もそれは変わらない。

「・・・ねえ、ヴィルヘルム」

「ん?」

子どもたちも一緒に買い物に連れて行くとき、はぐれないようにと手を繋ぐ。
私の右手をロニが握り、ヴィルヘルムの左手をヴィオレッタが握る。
・・・つまり、私の左手はヴィルヘルムの右手だ。

「両手塞がって不自由じゃない?」

「別に」

「ヴィルヘルム、母ちゃんの手離せよ」

「あ?お前が離せよ」

「オレは母ちゃんが好きだから良いんだよ!」

「俺はお前より長い間、ランが好きなんだよ!」

「二人とも!喧嘩しないの!」

子供同士の喧嘩の仲裁はほとんどない。
一緒にこの世に産まれたからなのか、ロニとヴィオレッタは仲が良い。
お兄ちゃん風を吹かしたがるロニをにこにこと見て笑うヴィオレッタはいつかの私達に重なる。
だけど、似たもの同士というかヴィルヘルムとロニが今みたいにしょっちゅう喧嘩する。

「だってヴィルヘルムが・・・」

「ロニ、お父さんって呼ばないと駄目よ。ヴィルヘルムはロニのお父さんなんだから」

「そうだそうだ!」

「ヴィルヘルムも!なんでロニと同じ次元で張り合っちゃうの?」

二人を平等に叱ると、分かりやすいくらいしゅんとしている。
本当に似たもの親子なんだから・・・

「お父さん、ロニ。元気だして?」

「ヴィオレッタはお利口ね」

「うん!ヴィオレッタはお父さんもロニも大好きなの!」

ヴィオレッタの言葉でひとまずその場は治まる。
いつもこんな風に時間が過ぎていく。
二人でいた頃より、ずっと慌しいけれど・・・とても幸せな時間だ。

 

 

 

買い物が終わり、家に戻ると子どもたちはすぐ遊びに行く支度を始める。

「遠くに行っちゃ駄目だからねー」

「だいじょーぶ!すぐそこで遊ぶだけだから!」

「お父さん、お母さんいってきまーす」

二人は仲良く手を繋いで出て行った。
買ってきた荷物を片付ける前にヴィルヘルムにお茶を用意しようとするとキッチンにヴィルヘルムが現れた。

「お茶飲むでしょ?」

「ああ」

「どうした・・・」

顎に手をかけると軽く上を向かされ、そのまま唇が重なった。
触れるだけのキスだったので、すぐ唇は離れるがそれからぎゅっと抱き締められた。

「ヴィルヘルム?」

「充電中だ」

「・・・そうなんだ。じゃあ私も充電しようかな」

ヴィルヘルムの背中に自分の手を回す。
ヴィルヘルムの腕のなかはいつだって安心する。

「そういえば・・・ヴィルヘルムも少し大人になってね」

「何がだよ」

先ほどの二人の喧嘩。
よく飽きもせずあんな風に喧嘩できるものだと感心してるけど。

「ロニはまだ子どもなんだから。ヴィルヘルムはお父さんでしょ?」

「お前のこと一番好きなのは俺だし、俺のこと一番好きなのはお前だろ。
それは絶対ゆずらねぇ」

「・・・もう」

子どもみたいな物言いに呆れてしまう気持ちが少しだけ。
残りの気持ちは嬉しくて仕方がない。
親としては子どもが一番愛おしいと伝えたい。
でも、私とヴィルヘルムが愛し合ったからこそ産まれてきた尊い命だからこそ。
一番好きな人は互いだと伝えたい気持ちもわかってしまう。

 

 

 

妊娠が分かった時、ヴィルヘルムは喜んだ。
そして、戸惑った。
俺は父親になれるのか・・・と。
父親という存在、家族というものがどんなものか分からない自分が父親になれるのか、と吐露した。
母親というものは不思議なもので、今までなった事がないのにお腹に新しい命が宿っているという事実が、自分を母親にしていくのだ。
日に日に大きくなるおなかを見つめて、ヴィルヘルムは私のおなかを毎日撫でた。

「ここにいるんだな、俺とお前のこどもが」

「うん、そうだよ」

「そっか・・・」

その瞳には優しさしか滲んでいなかった。

「はやく会いたいな」

そんな風に願うあなたが、父親になれないわけないでしょう。
私がそう言うと、ヴィルヘルムは黙って私を抱き締めた。

 

 

 

私が妊娠したと分かったとき。
大きくなっていくおなかにふれたとき。
彼はいつだって優しい顔をしていた。
産声を上げて産まれたわが子を見て、ヴィルヘルムは

「・・・おまえって凄いな」

「え?」

「だって、こんなに愛おしいと思う存在・・・
お前以外にいないって思ってた」

そう言って、震える手でロニを抱いて彼は泣いた。

「ありがとな、ラン」

「わたしも、ありがとう」

子どもたちが生まれるまで、ずっと私の手を握ってくれていて。
私にこんなに可愛い子どもを授けてくれて。

「ありがとう、ヴィルヘルム。だいすきよ」

「ああ、俺もだ」

 

 

 

あの日からもう4年の歳月が過ぎた。
変わらずに私を愛してくれて、愛させてくれて
子どもたちの良いお父さんになったヴィルヘルム。

「子どもたち、見てくるか?」

「それは大丈夫!もうすぐ帰ってくるよ」

「そうか?」

「うん」

夕食の下ごしらえも済ませ、私はヴィルヘルムとくつろいでいた。

「ただいまー!!」

「ほら」

「だな」

玄関から元気いっぱいな声とバタバタバタという足音が聞こえた。

「おかえりなさい」

「ただいま。お父さん、お母さん」

「ただいま、母ちゃん・・・と、父ちゃん」

にこにこ笑っているヴィオレッタと少し恥ずかしそうにするロニ。
二人はヴィルヘルムの前に立つと、後ろに隠していたそれを差し出した。

「「たんじょーび、おめでとう」」

「え?」

「おめでとう、ヴィルヘルム」

子どもたちから差し出されたのは画用紙。
受け取って広げてみると二人が描いたヴィルヘルムの顔があった。

「二人ともよく描けてるねー!」

「うん!がんばったの、お父さんによろこんでほしくて!」

「オレは絵がとくいなんだよ」

「・・・ふたりとも」

ヴィルヘルムは二人を両腕で強く抱き締めた。

「ありがとな、すっげー嬉しい」

「えへへー」

「・・・やめろよ、暑苦しいだろ!」

子どもたちは気付いていないけど、ヴィルヘルムの頬に一筋の雫が流れたことに気付いた。

「私もまざろっと」

そう言って、ヴィルヘルムを背中から抱き締める。
ねえ、ヴィルヘルム。
これが家族のぬくもりだよ。
二人だけで生きていくことを最初は望んだ貴方と、変わりたいと願った私。
二人で暮らすようになって、喧嘩もしたけどその分幸せな事だって沢山あった。
二人だけで生きていく幸せより、今腕のなかにある存在がどれだけ私達を幸せにしてくれてるか、貴方は知っているから・・・
そうやって涙を零すんだよね。
そういう貴方を好きで良かった。

 

 

 

 

 

子どもたちも眠り、俺たちは寝室に戻っていた。
子どもたちと俺たちは別々の部屋。
たまに怖い夢をみた、と言って二人揃って枕を抱えてくることもあるが、それ以外はいつも別々に眠っている。今日貰った絵は壁に貼り付けた。
それを見ていると優しい気持ちになる。

「嬉しそうだね、ヴィルヘルム」

「ん?」

寝る支度が出来たのか、ランが俺の隣に入る。

「ああ、すっげー嬉しい」

「良かった」

「ありがとな、ラン」

ランの手をとり、そこにキスを落とす。

「お前が俺に全部くれたんだ」

「それは違うよ。二人で築き上げたんだよ。
私だけじゃ叶わなかったし、ヴィルヘルムだけでも叶わなかった。
私とあなたがいたから・・・今、幸せなんだよ」

「・・・そうだな
なあ、ラン」

「なあに?」

その声に弱い、といわれたことがある少し低めの声を意識してランの耳元でそっと告げる。

「そろそろもう一人、どうだ?」

「・・・っ!」

意味を察したのか、それとも耳元で囁かれたことが恥ずかしかったのか。
あっという間にランは頬を紅潮させた。

「・・・そう、ね」

「だろ?」

「・・・うん」

指と指を絡め、唇を重ね・・・ようとした時。

「おとうさん」

「かあちゃん」

部屋のドアが開き、枕を抱えた二人が飛び込んできた。
慌てて手を離そうとするランの手を離すまいと握ると、少し潤んだ瞳が俺を睨みつける。

「どうしたの?ふたりとも」

「こわいゆめ、みた」

「いっしょに寝てもいい?」

「ああ・・・いいぞ」

二人は俺とランの間に潜りこむ。
俺、ヴィオレッタ、ロニ、ランの順番だ。

「おやすみなさい。ロニ、ヴィオレッタ」

「もう怖い夢、みんなよ」

「うん、おやすみなさい」

「・・・かあちゃんといっしょなら見ない」

あっという間に二人は寝息を立てる。
それを二人で見つめていると、ランが優しい顔をしている事に気付いた。

「おまえのそういう顔、すっげー好きだな、俺」

「え?」

「なんでもない。寝るか」

「ん、そうね」

子どもたちを抱くように手を伸ばして、自分たちの手を繋ぐ。
まるで夢みたいな幸福だ。
だけど、これは夢じゃない。
明日も続く、幸福な現実だ。

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