昔話(智則×詞紀)

ある穏やかな春の日。
書物の整理をしていると奥のほうから懐かしいものを見つけた。

「これ・・・」

それを手に取ると立ち上がり、私は部屋を出た。
まだ散らかっているけれど、少し休憩しても構わないだろう。
智則を探して屋敷の中をうろつくと、珍しく縁の下でお茶を飲んでいる姿を見つけた。

「智則!」

「詞紀、どうかしたのか?」

「これ見て」

彼の隣に座ると先ほど見つけた巻物を見せる。

「それは・・・」

「懐かしいでしょ?」

小さい頃・・・まだ文字が読めなかった私たちが絵を眺めて楽しんでいた巻物。

「ああ、あの頃はまだ文字の意味も分からなかったな」

「そうそう。絵だけ見て遊んだよね。
秋房は途中でよく眠っていたけど」

「懐かしいな」

優しい表情をする智則が好きだ。
想いが通じてから、彼はそうやって笑ってくれるようになった。
それが私には嬉しい

「あの頃の智則、可愛かったな」

「・・・うるさいぞ」

小さな頃の智則はちょっとした事で泣きそうになっていた。
私と秋房に落ち着きがなかったからだろう。
いつも一生懸命私たちの後を追いかけてきていたけれど、巻物を見たりするときは誰よりもはしゃいでいた。
巻物を持っていた手を引かれ、私は智則にもたれかかるような格好になる。

「智則・・・!」

「まぁ、夫婦なんだし良いじゃないか」

「・・・そうだけど」

触れ合うのがまだ少し恥ずかしい。
昔は私より小さかったのに、今は私より背が高くなって武をたしまないのに細いけど程よい筋肉のついた身体。

「やっぱり恥ずかしいわ」

智則から離れようとすると肩を強く抱かれてしまう。
上目遣いがちに智則を見つめれば、庭を見つめる智則の顔も少し赤くなっていた。

「ふふ」

「笑うな」

「だって、智則も赤くなってるんだもの」

「詞紀」

たしなめるように私の名を呼ぶから。
甘えるように彼にもたれてみる。
少しくらいこうしていたって良いだろう
だって私たちは夫婦なのだから

「ねぇ、智則」

「ん?」

「私・・・今、とても幸せよ」

「ああ・・・俺もだ」

春の風が私たちを優しく撫でる。

「ねぇ、智則。
これ読みましょう?」

「ああ、いいよ」

膝の上に巻物を広げると、智則と一緒に読んでいく。
こんな穏やかな気持ちで春を過ごせるなんて想っていなかった。
ありがとう、智則。
昔も今もあなたが隣にいてくれて、私は幸せよ。
穏やかな春の昼下がり、私は幸福をかみ締めていた。

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