おめでとうを貴方に(ニケラン)

ニケと二人で海を渡り、二人だけの生活が始まってから幾ばくかの月日が流れた。
先立つものもなくて、初めはアルバイトをしながら生計を立てつつ、お金を貯めた。
ある程度貯まってからは二人でパンを売るようになった。
貧しい生活だったかもしれないけれど、好きな人と一緒にいられる幸福のほうが勝っていて、私はとても幸せだ。

 

 

「ユリアナに?」

「うん!」

住むところが落ち着いてからはユリアナとこうして手紙のやりとりをしている。
ニルヴァーナでの出来事。
試合で以前より良い順位に食い込んだことやアサカとのお茶会の様子だったり、パシュやラスティンのこと。
最近ではコレットとソロンが良い感じらしくてギードが不機嫌だそうだ。
私は最近の生活の様子を綴る。
ニケとの生活は穏やかで幸せだ。

「それどうしたの?」

手紙を書く手を止めると、ニケの手にあるのはスノードロップ。
水色と青色が混じったような綺麗なガラス瓶にニケはそれを生けるとテーブルの中央に置いた。

「さっき木苺を積みに行ったら咲いてたから、少しだけ摘んできた」

「可愛い」

「ランみたいだね」

「・・・っ、ニケは突然そういう事言うよね」

何度も言われている言葉だけど、恥ずかしい。
胸のあたりが温かくなるような気恥ずかしさがあるのだ。

「そうかな、君が可愛いなっていつも思ってることだから」

「・・・もういいわ」

止まっていた手を再び動かし、照れをごまかすように言葉を綴る。
2枚の便箋にびっしりと書かれた文字。
それを封筒に入れて封をしてしまう。

「それじゃあ私、手紙出してくるね」

「うん、気をつけて」

家からすぐ近くなのに、ニケは必ずそう言って私を送り出してくれる。
ニケの優しさに包まれて、私は呼吸をする。
ニケがいるから私は悲しみを乗り越えて立つことが出来るし、今を楽しく生きることが出来ている。
ニケはどうなんだろう。
そんな事を何度も考えていた。
ニケの生い立ちを聞いたとき、苦しかった。
彼の身体を私の愛情で埋め尽くしたい、満たしたいなんて独りよがりな考えかもしれない。
いや、ただの自己満足なのかもしれない。

ニケは私にキスはするけれど、それ以上は求めてこない。
私も経験のした事がないものだけど、いつかは結ばれて二人で暖かい家庭を築いていきたいって思ってる。
いや・・・私がニケに触れたいんだ。
私が、彼を愛したいんだって気付いた時には気持ちが決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ニケ、明日は何が食べたい?」

入浴を済ませると、二人で一つのベッドで身を寄せ合う。
今夜は少し冷えるからくっついてると暖かくて落ち着く。

「んー・・・ハンバークかな。前にランが作ってくれて美味しかったよ」

「じゃあそうしようっと」

ちらりと時計を見るともうすぐ針はてっぺんを差すところだった。

「ニケ、あのね」

隣にいる彼の手に自分のそれを重ねて指を絡める。

「私、今がとっても幸せ。
ニケと一緒に毎日を過ごすのってキラキラしてるの」

「僕もそうだよ。ランがいるから、怖いくらい幸せ」

自然と唇を重ねる。
啄ばむような口付けを繰り返し、見つめ合っては微笑む。

「ニケ、お誕生日おめでとう」

「え?」

日付が変わったのを確認してからニケに告げる。
驚いた顔をしながら私を見る。

「ああ、そっか・・・誕生日なんてあんまり意識してなかったから」

「これからは私が毎年貴方におめでとうって言うわ。
生まれてきてくれてありがとう、幸せよって。
だから、ニケ・・・」

多分、私の顔は今真っ赤になっている気がする。
自分からそういう事言うのははしたないかもしれない。
だけど、私から手を伸ばさないと、ニケは臆病だから

「私を全部貴方にあげる」

それだけ言って、ニケにキスをした。

 

 

 

 

 

 

ガラス細工でも扱うかのように、ニケは私に触れてくれた。
気恥ずかしさが残るけれど、行為が終わった後ニケは私の手をきゅっと握ってくれた。

「ラン・・・ありがとう」

ニケは凄く穏やかな笑みを見せてくれる。
私も嬉しくて、ニケに身体を寄せた。

「ニケ、大好きよ。
これからもずっと一緒にいてね」

「うん、ずっと一緒にいよう
好きだよ、ラン」

降り注ぐ愛の言葉と、口付けにもう一度目を閉じた。
誕生日のお祝いはまだまだこれから。

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