恋文は突然に(アキアイ)

少しずつ。
多分、他のカップルに比べれば私たちの歩みはとてもとても遅いのかもしれない。
一歩進んでは立ち止まり、戻って・・・進んでを繰り返すような日々。
それでも心地よい距離感にアキちゃんがいて、たまに凄く嬉しそうに笑う彼を見て、幸せだなぁ・・・と思えるようになった。

授業中、アキちゃんから届くメッセージの通知。
それをこっそり見てはくすりと笑う。

『アイちゃん、大好きだよ』

と何度もメールをもらった。
口に出して伝えてくれるし、メッセージでも隙あらば・・・というくらい言葉にしてくれる。
私もアキちゃんにそういう気持ちを少しずつ伝えていけるように頑張ってはいるけれど・・・
アキちゃんに言われて、私が返すっていう図式が少し申し訳ない気持ちになる。

(だけど、アキちゃん凄い言ってくれるしなぁ・・・)

世間のカップルがどのくらいの頻度で好きだよ、って言ったりするのかは分からない。
私にとって初めての恋人はアキちゃんだから比べるものなんて勿論ないし、比べたらアキちゃんは拗ねるし、きっと見えないところで傷つくだろう。
かと言って、クラスの子にそんな事聞いたら大変なことになりそう。
アキちゃんと付き合い始めた頃、ほとんど話したことのないような子にさえ質問攻めにあった。
そうして話したことのなかった子とも少しずつ話せるようになり、少しだけ私は生きやすくなった気がする。
アキちゃんと付き合うようになってから、少し空気が柔らかくなった気がするとクラスメイトに言われた時は嬉しくてアキちゃんにその話しをした。
私以上に喜んで、それから-『でもアイちゃんに変な虫寄ってこないように気をつけないとね』と悪い笑みを浮かべた。

ゆっくりゆっくりだけど、私たちは恋人になっていっているんだろう。
繋ぐ手が、ドキドキ以外のものをくれるようになった。
抱き締められると彼の匂いにほっとするようになった。
そうやって少しずつ、好きという気持ちが私を優しくしてくれてる気がする。

振動するスマホからはやっぱりアキちゃんからのメッセージ。
放課後の約束だった。それに返事をしたところでふとノートに目がいく。

 

 

 

 

 

 

アイちゃんは可愛い。
贔屓目に見なくても可愛い。
以前はちょっと影がある空気があったので近寄りがたいと聞いたことがある。
けど、今はオレと付き合うようになり、柔らかくなったといわれたと聞いたし、実際オレもそう感じていたから凄く嬉しかった。
学年が違うから完璧にガードできてるかどうかは分からないけど、アイちゃんにはオレがいるぞっていう事をアピールは欠かさないし、オレにはアイちゃんがいるというアピールも欠かさない。

「アーイちゃん」

「-っ!アキちゃん!どうしたの?」

「あれ?アイちゃん掃除当番なんだ。そこで待っててもいい?」

「まだ少しかかるけど、いい?」

「うん。ここからアイちゃんのこと見てるね」

「アキちゃんってば」

いつも下駄箱だったり、校門だったりで待ち合わせをしているけど教室でのアイちゃんが見たくてこうしてやってきてしまった。
一生懸命箒を掃く姿も可愛い。いや、しつこいけど何しても可愛いんだけどね。
オレの知らないクラスメイトと話をするのを見て、やっぱりまだ固い表情にちょっとだけ安心する。
一番可愛いアイちゃんを知ってるのはオレだけ。しゃがみこんでアイちゃんの様子をひたすら見つめていた。

 

掃除が終わり、ようやく二人で学校を出る。
いつも通りの帰り道。今日は二人で本屋に寄り道をして、あと10分も歩けばアイちゃんの家だ。
今日一日の出来事を話し終え、オレはさっきの掃除をしていたアイちゃんの話題を引っ張り出した。

「アイちゃんが頑張る姿って新鮮だなぁ」

「そんな事ないと思うけど」

「オレの知らないアイちゃんを見た気がする」

冗談めかして本音を漏らす。多分アイちゃんにもそれが伝わったのだろう。
一瞬眉間に皺が寄る。それから一旦繋いでいた手を離すと鞄から紙を取り出した。

「これ、あげる」

「なに?これ」

「アキちゃんが知らない私・・・かな」

そういわれて、渡された紙を開く。
アイちゃんらしい可愛らしいメモ帳にやっぱり女の子らしい文字で言葉が綴られていた。
”-アキちゃんへ

今は数学の授業中です。
本当はこんな事しちゃダメなんだけど、いつもアキちゃんに先を越されてしまうので私なりに考えてみました。
いつもいつもありがとう。
アキちゃんのこと、とっても好きです。
でも、あんまり授業中にメッセージ送ってきちゃダメですよ。

アイより-”

 

一度読み終わってからもう一回頭から読み直す。

「い、一回読んだでしょ!?アキちゃん!」

「いやいや、まだ読んでないよ」

「嘘だよ!」

恥ずかしそうに頬を赤らめたアイちゃんが視界に入る。
ああ、もうやだ。何この可愛い彼女。

「もう・・・なんで敬語なんだよ、可愛すぎるでしょ」

アイちゃんの手首を掴む。
引き寄せて、額に軽く口付けた。

「だって、手紙ってあらたまるから・・・もう、そんな顔しないで。恥ずかしくなる」

「アイちゃんからみてどんな顔してんの、オレ」

「・・・すっごい嬉しいってカオ」

「ふふ、だってすっげー嬉しいもん」

あー、この手紙後生大事にしよう。
にやける顔を抑えれないオレを見て、くすぐったそうにアイちゃんも笑う。

「オレもアイちゃんにいっぱい手紙書こうかなー」

「授業中はダメだよ」

「アイちゃんだって授業中に書いたのに」

「それは!思いついちゃったから・・・」

「そっか。アイちゃんは授業中もオレのことばーっかり考えてるんだ」

「-っ!授業も聞いてるよ!」

ああ、可愛いな。アイちゃん。
どんなアイちゃんも可愛いって思ってるけど、やっぱりオレの隣にいるアイちゃんがいっちばん可愛くて、大好きだ。
まず家に帰ったらメモ帳を探そう。
アイちゃんのように可愛いものは持ってないけど、アイちゃんが喜びそうなメモ帳がいいな。
そんな事を考えながらアイちゃんの手をぎゅっと握った。

 

 

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